おまけ




※猪野くん勘違いフィーバー










じゅーじゅーと肉の焼ける音。白い煙が真上の排気口にどんどん吸い込まれていく。肉の焼ける匂いが食欲を唆る。
網の上の肉をトングでひっくり返して、焼けているものを向かいの猪野の皿へと乗せる栂。そして新たに肉を網の上に乗せている。それを見て、ビールに口をつけていた七海が呆れた声を漏らした。

「栂さん、貴方焼いてばかりじゃないですか。食べてください」
「こういうところは焼くのが楽しいんだって。ほら、猪野くんいっぱい食べな」
「あざっす!!!」
「全く………」

七海と二人で来ると後輩の自分がと率先して肉を焼く猪野が、今日は珍しく食べることに専念している。栂の面倒見の良さに猪野もすっかり懐いたようだった。栂と七海の二人で食事をするとき、焼肉は今まで選択したことがなかったので栂が焼くのが好きだとは知らなかった。二人の時は落ち着いた店が多く、猪野のリクエストで焼き肉に来たが、栂の知らない一面を見ることができた。
肉は敷き詰めすぎると空気がうまく行き渡らず焼くのに時間がかかり味を損ねるのだが、栂はきちんと心得ているようで、適度な隙間を肉の間に作りつつ、テンポよく焼いている。相変わらず器用な人だ。

「七海サンと栂サンは呪術師やる前から知り合いなンスよね?」
「んーなんていうか、七海くんが会社員だった頃の会社が一緒だっていうのが正しいかな」
「私が後輩で、指導係が栂さんでしたね」
「懐かしいねー。指導係っていっても七海くんが優秀すぎて、特に教える事も無かったけどね」
「あーなんか想像できるっスねー。七海サンがバリバリオフィスで働いてる姿」

呪術界ではマトモ扱いされる七海は会社員であった時代もある。呪術師に戻ったからといって急に黒づくめになったり、いかにもソレっぽい服装をするつもりはなかった。七海ももういい歳をしており周りに溶け込むのも必要なスキルである。
店員が持ってきたウーロン茶を七海が受け取り、それを隣に座る栂へと渡した。

「そういえば、栂サンは酒飲まないんスか?」
「あー色々あってね。七海くんの前でしか呑まないの」
「え!?」
「ん?」
「あ、いや!?え、え!?いや、そう!?そういうやつなんっスか!!!???」

急に動揺しだした猪野に、栂と七海が揃って首を傾げる。再会後知ったが栂は七海の前でしか呑まないのを継続しており、猪野がいるこの場では呑まない。七海はそれになれすぎて、今更違和感を覚えることは無かった。

「どうかしましたか、猪野くん」
「いやいやいや!大丈夫っス!どうもしてません!いいんじゃないかと思うっス!!!」
「ん???」
「よく分かりませんが……とりあえず声のボリュームを少し下げてください。お店の迷惑になります」
「ッス!!!!」

口から空気が漏れたような猪野の頷きに、七海が溜息を吐くと、隣からクスクスと笑い声が聞こえた。そちらを向けば栂が口元を押さえながら「猪野くん面白いね、七海くんにぴったりだ」と言うので、そうですかと気の無い返事をしようとしたが、猪野の「栂サンの方が七海サンにお似合いなんで!!!!」という声に掻き消された。





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