虎杖悠仁という子供を、古巣の先輩にあたる五条悟から預かった。正直五条悟は高専時代から厄介の権化のような存在で、それから差し出された虎杖悠仁も当然厄介事だった。死んだ事になった人間を連れて歩くなど面倒ごと極まりないが、五条悟に抗議したところで唯我独尊であるあの人が聞き入れるわけがない。渋々行動を共にしているが、呪術界には珍しい明るく素直な子供だった。亡くなった級友が頭をよぎり、当時の無力だった自分に虚しさを覚えた。

虎杖悠仁を補助監督の伊地知に任せて、殆ど目星のついている今回の任務のターゲットがいるであろう場所へと訪れた。人間を改造して化け物へと変える胸糞悪い相手。結果は想定通りで、地下で未確認の人型の特級呪霊を相手にする事になった。一級の七海に特級は格上だが、しかしまだ呪霊として成長しきっていないようで祓える可能性もあった。呪霊は歳月が経てば強くなる。可能であればこの場で祓ってしまいたいと受けて立ったが、想像以上に苦戦を強いられた。相手の特性が悪い。触れられないようにと避けた呪霊の手が七海の腹に触れる。触れられただけで、嫌悪感がわいた。

魂への干渉、人型の呪霊の言う通りであれば、そもそも魂を持つ人間は不利だ。さらに自身の大きさを自在に操れるせいで、七海の術式との相性が悪かった。七対三にしても、形が変われば七対三の位置が変わる。重症でないにしろ先程触られた腹の傷も放置してはおけない。この場で死ぬつもりもなく、情報を持ち帰ろうかと逃げる手を考えた。

そこへ、予想外の事が起こる。

「いったぁ……マンホールの蓋ごと落ちることなんてあり得るの…?こんな不幸泣けてきちゃう……久しぶりに七海くんにメールしようかな…」

どさっと上から人が落ちてきた。思わず動きを止める七海と特級呪霊。争っている間に周囲の壁にダメージが蓄積してマンホールが外れたらしい。落ちてきた人間がメガネを直しながら顔を上げて、七海を見て驚いた顔をする。
七海も驚いて、そして慌ててそちらに走り寄ろうとした。

「え、七海くん…?」
「栂さん…!?逃げろ……!!!」
「お、良いところに人間!」

しかし七海より特級呪霊の位置の方が近い。特級呪霊の手が栂へと伸びる。栂が壊されてしまう、焦りで時がスローモーションに感じた。

「っ!?」
「ーーー折紙、鶴式」

栂が何かを宙に放って手印を組んだ。するとそれが大きく姿を取り、特級呪霊へと向かっていく。栂はその隙に七海の元へと走った。鶴、栂が餞別にくれたもの、そして会社のデスクに置いていたことを思い出した。あれは趣味ではなく、仕事だったのか。

「特級かな?俺はサポート特化。特級は相手出来ない、逃げるよ七海くん」
「はい」

七海は栂が式神使いであることを瞬時に理解し、また栂も七海が呪術師であることを直ぐに理解したようだった。長話をしてる暇はなく、栂が新しく出した式で特級呪霊の気を引くと、七海が呪法「瓦落瓦落」で周囲を壊し呪力を使って集中落下させた。七海たちも一歩間違えば巻き込まれる量の瓦礫だったが、栂が出した式によりその場を素早く離脱できた。

向こうもただでは済んでいないと思うが追って来ないとも限らず、なるべく離れた場所へ移動しビルのトイレへ身を隠した。漸くそこで一息つく。あのまま続けていたら相性の悪さで死んでいたかもしれない。
隣で栂が流し台に両手をついて深く溜息を零している。

「なんてこった……、今日は平日のはずなのに式を消費しちゃうなんて……」
「栂さん、呪術師、だったんですね」
「あはは……実は副業で……週末だけね」

会社には黙っておいてね!と言うのであの会社が副業NGだったことを思い出した。まさか栂が呪術師だとは、考えたこともなかった。週五で働いて、週末呪術師をしているなんてタフな話だし、労働はクソと言っていた割にずっと労働していることになる。余程はやいうちに稼いで、仕事しない生活になりたいようだ。
栂は七海が呪術師をしていると言うことに驚いた様子はなかった。何処かで知っていたのかもしれないと思うと、言い出してもらえなかったことに若干淋しさを覚えた。栂が七海の脇腹をみて心配そうな表情を浮かべる。

「ていうか腹部やばいね。反転術式してもらわないと。補助監督ついてる案件?」
「伊地知くんがついてます」
「あー!じゃあ五条くんの案件なんだねー!そりゃ特級が出るわけだ!」

五条悟を知っているようだった。学生時代の七海の胃痛の原因になった人なのだが、栂はそこまでは知らないようで、「五条くんに頼られるなんて七海くん強いんだねー」なんて呑気なことを言っている。七海は久しぶりにあった栂を見て、場違いに口元を綻ばせた。最悪な案件だが、栂とこうしてまた同職になっていたと分かり、少しだけ気分が上向いた。





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