社会人一年目、栂と組んでいた時は仕事は苦ではなかった。落ち込むことや憤ることもあったけれど、栂が見えるところも見えないところもフォローしてくれていて、七海がしんどいときはランチや呑みに連れて行ってくれた。栂は一度七海に飲酒後の姿を見せたせいか隠す気が無くなったようで、稀に酒を口にした。栂が愚痴をこぼす姿を見るたびに、情けない話だがひとりではないのだとホッとした。

ずっと栂の下で働ければ良かったが、大企業では配置転換はよくあることで、特に栂は評判が良いので他部署に移ってしまった。必然的に独り立ちをすることになり、がむしゃらに働いた。働けば働くほどひとりを痛感する。金、利益、金。栂とは連絡を取らなかった、金に埋もれていく自分を見られたくなかった。二年目になり七海も当時の栂の立場になった。七海は新人に栂にしてもらったように接し、ランチも奢った。先輩として、頼りにされていると思う。その一方で、彼では埋まらない孤独感もあった。それを誤魔化すように金のことばかり考えて。

栂が以前に詫びでくれたカスクートが売っているパン屋に通うようになってから気が付いた。学生時代を通して呪術師はクソだと痛感し、社会人生活を通して働くということはクソなのだと痛感した。どっちもクソならばより適性のある方にいた方が良いのではないか、と。
古巣へ戻ろう。確実に生きるということが保証されなくなる、死ぬかもしれない、しかし人の役にたっていることを実感できる、割のいい仕事へ。






折角育ててくれた栂に退職の話をするのを申し訳ないと思いながら久しぶりに栂の元へ訪れると、予想を裏切って両手を打って喜ばれた。

「正しい!!正解!!!!」
「はい?」
「七海くん、仕事を辞めるって言うのはとっても勇気がいることだけど、俺から見てもうちの会社はクソだから、転職の選択肢正解!!戦略的撤退!!心身が壊れる前に逃げる決断ができてえらい!!!!」
「馬鹿にしてます?」
「何で!!!???」

感動的にとまではいかないが、もう少し名残惜しそうに引き止めて欲しかった。しかし彼も七海と同じく、労働もこの会社もクソだと思っているので引き止めるわけがない。栂がにこにこと笑って、七海の肩をぽんぽんと叩く。

「転職先でも頑張らない程度に頑張って」
「……どっちですか、それ」

励まされているのか、励まされていないのか。働きたくないという彼らしくて、つい思わず言葉とは裏腹に笑みがこぼれてしまった。餞別にと渡された折鶴を受け取って、未練なく退職した。





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