翌日出社すると、栂が七海の顔を見るなり見事に流れるような動作で土下座してきた。七海は面食らって焦って栂の腕を掴み立たせようとする。

「ほんとーにごめんなさい。申し訳ございません。こちらお詫びの、詫びカスクートです」
「止めてください…!」
「酔って面倒をかけてしまい」
「いえ」
「後輩にお持ち帰りさせて、あまつさえベッドに」
「その言い方止めてください!盛大な誤解が生まれてます!」

周囲の視線が痛い。栂の腕を引いて自席へと引っ込む。カスクートが入っているらしいパン屋の袋を受け取り、椅子に座れば漸く落ち着ける。

「本当に、気にしないでください。確かに驚きましたけど、寝落ちただけで大人しいものです」

あの後寝落ちた栂を抱き上げて家に連れて帰った。栂の家を知らなかったし全く起きないしで、止む終えず、だ。そして先輩を床に転がすわけにもいかず、ベッドに寝かせて、七海自身はソファーで寝た。朝起きたら栂の姿は無く、いつの間にか出て行ったんだなとしか思っていなかったが。
会社で顔を合わせるなり土下座してくるので焦った。先輩に土下座させた後輩などという噂が立たないだろうか。
恐らく人前で呑むことに慣れていないのであろう栂は、迷惑をかけてしまったとシュンとしており、その姿に栂は根はいい人なのだと実感した。

「本当に気にしないでください、学生時代の先輩の奇行とは比べられないぐらい楽でした」
「あ…そ、そう……」

学生時代のことを思えば、酔っ払った栂ぐらい可愛いものだ。苦でも何でもなかった。
今日栂に会ってみて思ったが、あの酔っ払った栂を見てもショックはあれど幻滅はしなかった。確かに幻想だったのかと驚いたが、よく考えなくてもそれ以上の親近感が湧いていた。今までパーソナルスペースを守りすぎていて、栂という人が見えていなかった、今はきちんと栂を見れている気がする。
七海は口角を上げて、栂が寝落ちてしまって伝えられなかった言葉を伝える。

「私も、労働はクソだと思うので、一緒です」
「!」

栂は驚いたように目を瞬かせて、そしてパァッと顔を明るくした。

「そっか!」




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