ねぇねぇすくなC 裏梅の目の前に飛び出してきた子供に、裏梅は盛大に顔を顰めた。 裏梅の敬愛する両面宿儺の周りをチョロチョロとするようになった子供は、裏梅にとって面白くない存在だった。ある日突然宿儺が拾ってきて、そればかりか、傍に近寄ることが許されている。信じ難い話だ。何か突出したものがあれば裏梅の心象もまだ違ったかもしれないが、この子供はただの子供でしかない。首に下げた注連縄がなければ今すぐにでも殺していただろう。その注連縄こそ、宿儺の興味の対象であり、宿儺が傍に寄ることを許している証なのだが。それが忌々しいことこの上ない。 「おい、貴様。さっさとどこかへ行け、目障りだ」 「めざわりってなぁに?」 「邪魔だということだ」 「へー!」 子供は大層肝が据わっており、裏梅どころか宿儺にも同じように接する。最初見たときは衝撃的すぎて裏梅は気絶しそうになった。宿儺を前にして畏怖も敬意も一切感じていないなど、あり得るわけがないというのに。裏梅がこの子供を厭う理由のひとつでもある。 顔を顰めて追い払おうとするが、子供はどこ吹く風だった。 「ねぇねぇ、これなぁに?」 「誰が貴様に教えてやるか」 また始まった。この子供は知らぬものをみつけると直ぐに聞いてくる。忌々しいことに、宿儺が律儀に答えてやっているところがまた裏梅にとって腹立たしいポイントの一つだ。 子供は裏梅の言葉にきょとんとして、こくりと頷いた。 「わかった!すくなにきいてくる!」 「ちょっと待てちょっと待て。それは駄目だ。そして『様』をつけろ」 「なんで?」 「そのようなことで宿儺様の手を煩わせるな」 「手つかわないよ?」 「そういうことではない!!!!」 「????」 何も知らないというのは何故こうも厄介なのか。こんなくだらないことで宿儺の元へ行かれては堪らない。裏梅はイライラとしながら、子供の持つ赤い実を教えてやる。 「クソッ、何で……それは山査子だ」 「さんざし」 「分かっただろう、何処となりでもいけ」 「うん!すくなのところにいくね!」 「違う!!!!そうじゃない!!!!そして『様』をつけろ!!!」 「????」 裏梅はこの子供に対してもう何度目になるか分からない地団太を踏んだ。 |