ねぇねぇすくなA


※現代、2020クリスマス











タタタタッと軽やかな足音を立てて、虎杖たちに駆け寄ってくる小さな子供。
初めて会ったときは裸足でみすぼらしい古びた着物を着ていたが、今は買い与えられたあたたかそうな緑の恐竜の着ぐるみ服を着て、きちんと靴も履いている。
傍から見れば何ら普通と変わりない子供の首に不釣り合いにぶら下がっているのは、子供の首ほどの太さもある注連縄だ。
両面宿儺と縁があるらしいこの子供は未知の存在で、最強を冠する特級呪術師の五条でも術式や呪力が見えず、また宿儺の言葉を信じるのであれば、宿儺自身も未だ何か分からない存在らしい。
注連縄さえなければ本当にそこら辺を歩く子供と変わりないように思う。
子供はピタッと虎杖の前で立ち止まり、目をくりくりとさせて見上げてくる。

「ねぇねぇ!くりすますってなぁに?」

異質以外の何モノでもない子供は呪術界上層部により秘匿死刑にされそうになったが、首の注連縄によりどのような術も塞がれ、殺すことができなかったらしい。
本人は死刑執行中なにも理解できていないようでずっとぽかんとしていたと、秘匿死刑失敗後、後見人となった五条が笑って教えてくれた。

殺されかけたというのに全く呪術師を恐れないその子供は、虎杖に元気に質問をしてくる。

「え!クリスマス知らねーの!?っていや、確かにそうか…知らねーよな」
「カップルがいちゃついたりする日よ」
「おい……間違っちゃいないが子供相手なんだからオブラートに包めよ……」

宿儺曰く平安時代からいるらしい子供が、現代のクリスマスを知っているとは思えない。
驚く虎杖の隣で釘崎が即答をし、伏黒が釘崎に呆れている。
カップルという言葉の意味が分からないのか首を傾げる子供の目線に合わせるように虎杖はその場にしゃがんだ。
くりくりした目は真っすぐで、普通の子供にしか本当に見えない。

「めでたい日って感じだな。家族や友達、恋人と過ごしたり、豪華なご馳走を食べて、贈り物しあったりする日」
「ふーん」
「あと子供は、サンタクロースっていう白髭に赤い服を着たじーさんから、欲しいものがもらえる」
「へー」

改めてクリスマスといわれても虎杖も正確にはクリスマスが何かは知らない。
ただ祝う日であることは違いないはずだ。
楽しい日だよと伝えると、そうなんだ!と元気な返事が返ってきた。

「わっ」

急に子供が持ち上げられる。視線で追いかけるといつ間にか担任である五条が輪に加わっていた。軽々と子供を持ち上げた五条はそのまま子供を肩車する。
しゃがむ必要がなくなった虎杖はよいしょと腰を上げた。

「なになに、クリスマスの話?ケーキは絶対だよね!」
「けーき?」
「この間食べたでしょ?白いの」
「あれおいしかったね!」
「でしょう!」

五条の頭上で目をキラキラさせる子供に、つい虎杖たちにも笑みが漏れる。
何故かこの子供は食事というものを必要としないらしく、宿儺から一度も食事をさせたことがないと聞いたときに衝撃を受けた。
それ以来食育と称して色々と食べさせており、特に五条は家入に栄養バランスについて苦言されるほど甘いものを買い与えていた。
宿儺の傍にいた割に全く擦れておらず、眩しいまでに純粋な子供は、性格に難があるとされている五条ともうまくやれているようだった。伏黒にいわせれば「精神年齢が同じなんだろ」とのこと。
伏黒が子供に問いかける。

「お前は何かサンタにプレゼント願ったりしないのか?」
「しらないおじさんに何でおねがいするの?」
「的確な指摘」
「現実的に考えるとそうなるわね…」

子供の純粋さは時として大人の心を抉る。何でといわれると説明しようがなく、伏黒は困って釘崎にパスした。

「サンタはね………子供にプレゼントするのが趣味なのよ」
「間違ってないけどそれだと不審者感がすごいな」
「まぁまぁなんでもいいよ!それで?おチビの欲しいものは?」
「とくにない!」
「えー」
「私欲がないわね」
「本当に?」
「ない!」

五条に促されても子供はピンときていないようで首を傾げ、そして元気よく答えた。返事だけはいつも勢いが良い。
知る以外のことに関して興味がないらしい子供は、今までも何かを欲しがったことがなかった。食事を与えるようになっても、こちらが与えない限り欲しない。欲求は生の象徴だという、その欲求に欠けているこの子供は本当に何モノなのだろうか。

「相変わらず子供なのに子供らしくない…」
「宿儺の育て方かしら?」
『育ててはおらんと言っておろう。勝手についてくるのよ、そいつが』

虎杖の手の甲から口を出す宿儺。宿儺曰く、宿儺が殺そうとしても死ななかった子供で、そして死蝋となった今も宿儺について回っているらしい。
子供は宿儺の登場に目を輝かせる。

「あ、すくな!ねぇねぇすくな、ここにもみみずいたよ!」
『絶対に持ってくるな』
「はーい」

常であれば子供は喰らうものという宿儺との間に緊迫した空気になるはずだが。何のつもりか宿儺は大人しく、聞き分けのよい子供の返事だけが場違いに響いた。




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