猫叉


//直哉











支度を終えた直哉が廊下に顔を出すと、側付きの女が直ぐにやってきて膝をついた。それを一瞥し、きょろきょろと視線を彷徨わせる。

「楢は?」
「今日はまだ姿を見ておりません」
「なんや……東京に行くって言うといたのに」

昨日外出する旨は伝えているのに姿を表さないとは。何も言わずに連れて行ったほうが良かっただろうか、しかしそれで以前ヘソを曲げられて長く姿を晦まされたことを思えば、やはり黙っていることはできなかった。あの期間は堪えた、手元においておかないと直哉が落ち着かない。

「楢ー?どこやー?」

そう遠くにはいっていないだろうと屋敷内を歩き回る。禪院の屋敷は広く、かつ小柄な体は何処にでも入り込めてしまうため、本格的に隠れられたら探すのは骨がいるが。

「此処におったんか」

陽のあたる廊下で黒い物体がのびのびと寝転がっていた。近付いても逃げる様子はなく堂々と寝ている様は、まるでこの家の主のようだ。直哉は黒猫の楢の隣にしゃがんでそのつやつやとした長い毛に指を絡ませながら柔らかな背を撫でる。体がホカホカしていて長い間日向ぼっこをしていたことを物語っていた。もっと撫でてくれと顎を差し出してくるので、その顎の下を撫でてやると、嬉しそうにごろころと喉を鳴らした。

「今日東京行く言うたやろ?準備しぃや」
「にゃ」

短い返事と、立ち上がらない姿勢に、拒絶を感じる。直哉は耳の付け根を指先で擽ってやりながら相手を説得する。

「車も電車も嫌いなんかも知れんけど、俺が楢がおらんと寂しいやろー?」
「にゃー」
「ホンマやって。今回はいつ戻れるか分からんし」

数日ならまだしも期間がわからない状態で楢と離れるのは辛い。夜に抱いて寝ないと落ち着かないのは楢ではなく直哉の方だ。一度は冗談だろと尻尾を振った楢だったが、直哉が素直に口にしたからか慰めるようにするりと尻尾を直哉の腕に絡めた。

「……なぁん」
「え、かわえ」

楢は美猫だ。甘えるように鳴かれると直哉もつい笑顔になってしまう。楢は直也に付いてくるのが嫌なわけではなく、乗り物にのることを嫌がっている。昔から車も電車も船も飛行機も何度乗せても慣れないらしく遠出には付いてきたがらない。

「そんなに嫌なんやったら車も電車も俺が抱いとるから。それじゃだめか?」

楢の顔を見下ろす。オッドアイの瞳が直哉を見つめ返して、そして折れるように短く鳴いた。

「…………にゃ」
「ええこ。ほな行こか」

笑って楢に声をかけると、楢は起き上がり大きく伸びをした。そして直哉の肩へ軽やかに乗っかる。子猫ほどの大きさしかない楢は重くもなく、直哉はその頭を撫でて、その場から腰を上げた。


































「なおやはいくつになっても、さみしんぼ」
「楢がおってくれるから寂しないよ」
「にんげんのともだちつくりなよ」
「楢がおってくれたらええの」




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