ねぇねぇすくなD ※原作軸現代 談話室で伏黒たちが雑談をしていると文字通り子供が飛び込んできた。 片手にどこから見つけてきたのか蔓にぶら下がったままのサツマイモを持っている。一応洗われており土はついていない。きちんと靴は脱いだようだが、先ほどまで外にいたのは丸わかりだった。 「ねぇねぇすくなは?」 「虎杖なら任務だ」 「にんむ」 「いないってこと。分かる?」 釘崎の言葉にこくりと頷いた。 手に持っていたサツマイモを宿儺に見せようとしていたのか、宿儺、虎杖がいないと分かるとどうしたらいいのか悩んでいるようでサツマイモをじっと見つめた。 両面宿儺と同じ時代を生きていたらしい子供は、不思議な存在だった。首に太い注連縄を下げており、その注連縄が全ての害意から子供を守る。しかし子供自身は注連縄のことは全く理解しておらず、そもそも自分のこともよく知らず、知っていることの方が少ない。 それこそ昔、宿儺に聞いたことだけしか知らないらしかった。 子供を食らうはずの宿儺も、注連縄のせいでこの子供には手を出せないようで。長い付き合いであることは隠さず、出所不明だと笑う。良いものであるのか悪いものであるのかすら分からぬので、現在は最強である五条悟の手に渡っているが、特に拘束されているわけではなく。 高専内からは出ていかないように言われているようだが、好き勝手あちらこちらを探索しては、見つけたものを宿儺を筆頭に周囲の人間に聞いて回っている。怖いもの知らずな子供だった。 ハキハキとして元気のいい性格は内向きな呪術界には珍しく、子供というのも相まって高専内では可愛がられている。何も持たない子供のために、日用品やお菓子など、こっそり色んな人間が与えているのは暗黙の了解だ。 今日も元気に探索をして、どうやって手に入れたのか分からないがサツマイモを宿儺に見せようとし、目的の宿儺がいなかったようだ。サツマイモなんか見せられても宿儺も困ると思うのだが、そこは器の虎杖がきっとフォローするだろう。 サツマイモを持ったまま、机の上に転がった小さな四角い包みに首を傾げる。 「これなぁに?」 「お。おチビ興味あるか?」 「高菜」 「口開けてみ。飲み込むなよ?」 談話室には釘崎と伏黒だけではなく、二年生のパンダと禪院、狗巻もおり、そのパンダに手招きされて子供はそちらに近づいた。 禪院が包装紙を外して、ぱかりと無防備に開けられた子供の口にそれを放り込んでやる。 口を閉じた瞬間、子供の顔が輝いた。 「!!!」 「美味しい?」 「ん!」 「良かったなー」 「ん!」 釘崎とパンダの言葉にぶんぶんと首を縦ふる。首が引きちぎれるのではないかと心配な勢いだが、幸せそうな顔に制止するのは憚られた。 「これはキャラメルっていうんだ」 「溶かしながら食べるのよ。噛んじゃ駄目、歯が抜けるかもしれないから」 「チビって歯抜けるのか?」 「そういえば…どうなんだろ……」 「明太子………」 人間の子供にしか見えないが、本当に人間であればそもそも両面宿儺が最盛期だった時代から今まで生きているはずがない。 考えたところで、宿儺と五条が分からないものが伏黒たちに分かるわけもなく、兎に角キャラメルは噛まないことというのをよくよく言い聞かせた。 パンダが「あれ」と言葉をこぼし、何かに気が付いたようで、子供の両脇に腕を差し入れて自分の膝の上に抱える。パンダがでかく、子供が小さいせいで、どちらがぬいぐるみなのか分からない状況だ。 「なぁおチビこれ」 「んんん」 「あ、口がいっぱいだな。無くなってからでいいさ」 「ん!」 子供の口にはキャラメルが大きいようで、話しかけられてももごもごもとしていた。直ぐに気が付いたパンダが落ち着かせるように子供の頭を撫でると、いい返事が返ってきた。大人しくパンダの腕の中で、サツマイモを抱えている。 子供に話しかけるのをやめたパンダは伏黒たちに顔を向ける。 「なー、こいつの注連縄、ちょっとボロくなってないか?」 「そう?最初からボロボロだったじゃない」 「いや、………確かに言われてみれば最初より草臥れてきてるような…」 釘崎の言う通り、子供の首の注連縄は当初からボロボロだった。しかしパンダの指摘通り、最初の頃よりも解れや汚れが増えている気がする。普通に考えれば経年劣化だが、子供の首にぶら下がっているのはただの注連縄ではない。伏黒が気が付くほどなので、五条が気が付いていないとは思わないが、念のため声をかけておくべきか。 「ん?チビ寝るのか?」 禪院の言葉に注連縄から顔を上げれば、パンダの腕の中で子供がうとうとと船を漕ぎだした。外で遊んで、甘いものを食べて、パンダというふわふわ温かい生き物に抱かれたら、子供にとっては就寝へのレールでしかないだろう。 無理に起こしておく必要もなく、狗巻が子供の腕の中からサツマイモを抜き取っている。 「寝る子は育つってやつね」 「こいつちょっと発育悪いしな…」 「しゃけしゃけ」 「おやすみ」 いつまでも経っても子供だと宿儺が言っていた通り、伏黒たちと出会ってから子供は1ミリも縦にも横にも成長していない。大きくなれ、ふくふくになれ、と多くの高専関係者に思われているとは露知らず、子供はパンダの腕の中で静かに丸まった。 望まれてないのにうまれた。 白髪に赤目。 忌子、産まれてすぐに殺されそうになったけれど、生贄にされることになった。 敵視する家々を呪うために、捧げられた。 まっくらやみの洞穴の奥に押し込まれて、足枷をつけられて。 話すことも許されず、見ることも許されず。 誰も知らず、何も知らぬから、寂しくも苦しくも悲しくもない。 息を潜めて生かされた結果。 心が空っぽになった体は、器になった。 ねぇねぇすくな 時間がないよ |