虎杖と伏黒と時々宿儺






※虎杖入学直後、野薔薇入学前








今日は柊と虎杖、伏黒で自習だった。伏黒が宿儺の一件でまだ体調が本調子で無いので療養目的なのと、虎杖を高専に慣れさせるため、らしい。根明な虎杖は入学初日から高専に馴染んでいる気がするが、柊は大人しくその言葉に頷いておいた。
自習の間の課題を出されていたが、ただこなすだけではつまらない。
虎杖が伏黒と柊に机をくっつけてきて、三人で仲良く机を寄せ合うことになった。
虎杖が何処からか取り出した菓子を広げて、取り留めのない話をしながら課題をする。
伏黒はうんざりした顔をしているが、柊は嬉しかった。これテレビで見たやつ、と言いたかったのをぐっと我慢した。
勉強だけはやたら優秀な柊は、虎杖が分からないところ丁寧に説明していた。しかしお菓子のトッポを口に加えた虎杖が急に話を変えてくる。

「そういえば、柊は任務に出ないって本当?」

虎杖が分からない箇所があるというので教えていたはずだが、はてどうしてこうなった。
柊は困惑して伏黒へと視線を移すと、伏黒は諦めろと言わんばかりに首を横に振る。

「…柊は良いんだ、特別だから」
「とくべつ?」

まぁ課題が出来ていなくて困るのは虎杖だ。既に課題を終えた柊はそう割り切って、説明することを放棄して、不思議そうな顔をする虎杖に答える。

「俺は悟さんの六眼と無下限を持つ子供を産むために生きてるから、怪我の一つでもして産めなくなったら大変ってことで、任務とかそういうのは免除なんだ」
「それ。それだよ」

どれだ。今度は柊が首を傾げると、虎杖が興味津々といったように上から下まで柊へ視線を滑らせた。

「さらっと最初流されちゃったけどさ、子供産むってどういうこと?柊男だよな?」
「四方田の家に伝わる体質だ。母体、つまり柊の性別が男でも女でも子供を作れる」
「交わった相手の体質と術式を持った子供をね」

はへぇと気の抜けた声を虎杖が漏らす。そういう反応は新鮮で、やはり普通じゃないのだなと実感した。
子供子供産め産めと言われすぎて柊は麻痺しているが、そもそも男が懐妊するなど生物学上あり得ない。
世の理を外れまくっているのを突きつけられる。傷つくだけの無垢な心は無いが。

「ならば俺が犯してやろう」

急に知らぬ声が混じって柊は目を瞬かせる。
虎杖の手の甲に口が生えていた。

「両面宿儺!」
「ったくお前は黙ってろって」
「面白い体質だ。俺ですら初めて見る」

横で身構える伏黒と、うるさいと言った感じで手の甲を叩く虎杖。虎杖の扱いはまるで虫相手だ。
柊は目を瞬かせながら虎杖の手の甲を見つめる。

「それが両面宿儺?うける、口が生えるんだね」
「…柊…もっと危機感を持ってくれ…」

緊張感のない柊に、がっくりと伏黒が脱力をする。そう言われても柊は呪術界のことに感知していないため、呪物呪霊自体が珍しく、おまけに両面宿儺のことも知識でしか知らないので物珍しさが勝ってしまう。指で宿儺を突こうとして、マジで止めろと伏黒に手を取られる。

「クハッ、面白い」
「興味惹かれてるところ悪いけど、俺は犯されたとことで両面宿儺の子は宿さないよ」

面白がるのは結構だが面倒ごとは御免だ。柊は伏黒に諌められ大人しく手を引っ込めた。そういえば先ほど両面宿儺は四方田の体質を初めて見たと言っていた。昔から伝わっている体質だと思っていたが、もしかして違うんだろうか。まぁそんなこと、柊には関係ないが。

「四方田の体質はロマンチストでね、母体となる俺が惚れた相手の子しか宿さない。だから宿儺が俺を犯したところで何も産まなくて、ただ犯された事実と、両面宿儺は男色だっていう話が後の世に伝わるだけ」
「柊!」
「柊」

事実を淡々と口にしただけだが、両サイドから咎めるように名前を呼ばれて思わず肩を竦める。ちらりと左右を伺えば二人とも真面目な顔で柊を見つめていた。

「そういう言い方は止めろ」
「伏黒の言う通り。俺も、そういう言い方好きじゃない」
「…ごめんなさい」
「ん」
「分ったならいい」

そうか二人には地雷なのか、と納得をして今後は気をつけようと柊は謝罪を口にした。事実は変えられないので言った内容に関しての謝罪ではなく、二人にネガティヴな内容を聞かせてしまったことに関する謝罪だが、謝罪は謝罪だ。
両面宿儺は興味を失ったのか、いつの間にか虎杖の手の甲から姿を消していた。

「それで話戻るけど、じゃあ俺たちが任務の時どうすんの?」
「家入先生のお手伝いしてるか、自室待機」
「そーなの?遊びに出かけたりしねーの?」

新しいトッポを取り出した虎杖が柊に差し出す。断るのも悪いのでそれを手に取ると、柊はそのまま隣の伏黒の口元へと持っていった。甘いものはいらない。伏黒は柊のその行動に呆れながら、パクリと口を開けてトッポを口に入れる。そして咀嚼して柊の代わりに虎杖に返した。

「…柊は、外出が禁止されている」
「へ?」

市販のお菓子というのも柊にとっては珍しい。実家ではまず用意されないし、柊は甘いものが好きではないため買いたいとも思ったことがなかった。しかし市販のお菓子のパッケージは心惹かれるものがある。購買意欲を擽られるとはこのことかと感心しながら、まだ封の空いていないお菓子を手に取りパッケージを眺める。

「外に出るときは悟さんか恵くんと一緒」
「……不自由してんのな」

虎杖のその言葉に柊は静止して、そしてお菓子のパッケージから顔を上げた。
不自由だなんて考えたこともなかった。そもそも外を知らないので、自由も不自由もないのだ。
柊に夢はないしやりたいこともない。産むためだけに生かされているので、五条悟の子が成せればそれでいい。

「そんなことないよ。閉じ込められててもおかしくないし、外に行けないだけで好きなことさせてもらえてる」

何故不自由だと思うのか心底不思議で、柊は虎杖を見つめた。別に監禁されているわけでも、鎖で繋がれているわけでもない。あれはだめ、これはだめ、と言われたこともない。
けれど虎杖の顔を見て、柊のこの人生が普通ではないことを実感した。
柊が周りと違うことで気を使わせてしまう、そう思った。
なので咄嗟にポジティブな言葉を口にする。大体これをいえば皆納得をする魔法の言葉。

「映画・アニメ見放題、ネット・ゲームやり放題」
「ーーーそれサイコー!」

サムズアップして虎杖が納得してくれた。
今日何度目か分からない伏黒の呆れ顔が横目に見えたが、丸く場が収まったのであればいい。
柊は、なるべく高専では普通に生きていきたいと、口に出す言葉は気を付けようと改めてそう思った。





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