こわいゆめ









暗い廊下を走り抜けて、目的の部屋の前で立ち止まる。恵は襖を開けて中を覗き込んだ。枕元の灯りが点けられており、櫟はベッドに上体を起こして本を読んでいた。恵に気が付いて声をかけてくる。

「恵?こんな夜中にどうした?」
「…………」
「怖い夢でも見た?」

櫟が居たことに安堵して、同時に怖くて堪らなくて、言葉にならなかった。

「おいで、一緒に寝よう」
「………」

櫟がベッドに手招きしてくれ、恵は室内に足を踏み入れた。部屋いっぱいに敷き詰められた本を避けて、櫟の隣に潜り込んだ。櫟は本をベッドサイドに置くと横になり、恵にシーツをかけ直す。恵は怖さを吹き飛ばしてほしくて、辿々しく言葉を紡いだ。

「…ひとりに、なる夢を、みた」
「………」
「津美紀も、五条さんも、櫟さんも…いなくなる」
「そっか…それは不安だったね」
「………ん。櫟さんは、どっかいかないよな?」
「………」
「櫟、さん…?」

否定して欲しいのに返事が来ない。増していく不安に恵が瞳を揺らすと、櫟が切なさそうにゆっくりと瞬きをした。

「こういう時、もどかしくなるな…」
「もどか、しい?」
「何処にも行かないとは、いえない」
「っ」









夢の通り、置いていかれる。恵が息を呑むと「でも」と櫟が続けて、そして恵を腕の中に抱き込んだ。いつも恵を抱き上げてくれる優しいぬくもり。

「絶体絶命、どうしようもないってときは駆けつけるって約束したろ?」
「……うん」
「寂しい思いをさせるかもしれない。でも、恵は一人じゃないよ。俺も津美紀も、恵と繋がってる」
「………」
「なんて、そんなこと言われても、傍に居て欲しいよなぁ……ごめんな恵、ごめん」

櫟は何度も恵に謝った。下手にずっと一緒だと嘘を吐かれるのも嫌だが、ずっと一緒だと約束してもらえないのも辛かった。櫟の優しさが分かるからこそ、淋しさが増して。
恵は櫟の胸に顔を埋めて唇を噛み締めた。櫟からおひさまの匂いがして、この匂いが離れていくと思うと、悲しくてかなしくて堪らなかった。 




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