隊のお茶会



ヒワちゃんがデスクに広げた色とりどりのお菓子に目を輝かせる。
俺はその顔が可愛くてふふっと笑みを零した。

「これなんですか?」
「ブッセ、焼き菓子だよ」

へぇーと分かっているのか分かっていないような適当な相槌を打ってヒワちゃんはブッセを手に取った。
既にマドレーヌを手に取っている鴇崎くんも珍しく顔を綻ばせている。

「おいしいです」
「よかった。おいしいて言ってもらえると嬉しいね」
「つぐみさん、エンジニアやめて、戦闘とパティシエの兼務になりません?」
「なんないよ。俺の職業をこれ以上ぶれさせないで」

ヒワちゃんが真剣な顔で言ってくるで洒落にならなくて俺は苦笑いを返す。
今ですら、何の職種なのかさまよっている所なのにパティシエなんて入ってきたら益々意味が分からないことになってしまう。

「くぐい、今くらいゲーム止めなよ」
「んー…あともうちょっとー」

そう間延びした声を漏らし、しかし手元のPSPからは視線を逸らさない。
ソファの縁から足を投げ出して、俺の膝の上に頭を乗せて寝転がってるのは現在絶賛ゲーム中の弟くんだ。

俺たちは隊室のソファーでまったり休憩中だったりする。
仕事が片付いてテンションあがってお菓子を徹夜で作ってしまい、多量のお菓子の処分に困ったので皆に消化を手伝ってもらうことにした。
結局徹夜して全く寝れてないけど、おいしいと食べてくれる隊員が可愛くて俺の疲れが癒される。

「弟くん」
「あー」

小さいクッキーを弟くんの口元に運ぶと、あぐっと食い付いた。
小動物の餌付けに俺はまたほっこりする。

「怠惰だ…」
「すみません……」

若干二人が呆れた声を漏らしているが、俺としては全然気にしてない。
一人くらいこういう子がいても良いと思う。
もぐもぐと口を動かして、しかし手元の動きは緩めない。
横を向いてゲームをしているので俺はその画面を邪魔しない様に後ろからのぞきこむ。

「今どんな感じなの?オンラインやってるんでしょう?」
「うん。国近と対戦してて、俺の方が優位」
「同じ本部内にいるなら一緒にやればいいのに」
「いや、こっちはこっちでお菓子食べたいしー」

ゲームと同じくらい興味を持ってくれたらしい。
俺は目を細める。

「あ、つぐみさん嬉しそう」

そりゃ嬉しいよ。自分の隊の子だもん。
俺がにこにこすると、ヒワちゃんや鴇崎くんは苦笑いを零した。
そこで弟くんが「よし」と声を漏らして上半身を起こした。

「勝った?」
「とーぜん」

親指を立ててそう言い、PSPをソファに投げた。
放置すると絶対に踏むか、壊すかする子なので、俺はそれを回収してデスクの上に置いておく。

「わーい、勝利のお菓子」
「勝たなくても食べれるけどね」

ヒワちゃんの言葉に俺は確かにと頷く。
勝っても負けてもお菓子の量は変わらない。
そもそも万が一にも弟くんが負けるとは思えないが。
弟くんがカヌレを手にとってじっと見つめてから俺へと視線を移す。

「たいちょーってさ、第二の人生はパティシエにでもなるわけ?」
「へ?」

きょとんとすれば、弟くんはカヌレを齧る。
第二の人生って、もうすでに定年後の話し?そんなに老いていたのか俺。
ショックを受けたがどうやら違ったようで弟くんは言葉を続ける。

「もはやプロの味。店持てるよ」
「いやいや、鴇崎くんも綺麗に作るでしょ」
「でもお兄のとは違う」
「そうだね。俺は作るより、うーん…口当たりがやわらかいよね」
「そうそう、それ」

どれだ。
俺は鴇崎くんのお菓子好きだけど。というか鴇崎くんの方がセンスあるしプロになれそうだけどなぁ。
片手にフィナンシェ、片手にヌガーを持ったヒワちゃんが徐に口を開く。

「俺はどっちも好きだ」
「あ、うん」
「……ヒワさんって感じでほっこりしました」
「?」

ヒワちゃんならそう言うだろうなと思った。
首を傾げるヒワちゃんに、俺たちは笑みを零した。




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