兄と雑談


荒船と当真が揃って談話室に向かっていると、ちょうど通路の角から見慣れた顔が出てきた。


「お、くぐいのおにーさん」
「鴇崎さん」
「当真くん、荒船くん」

振り返ったその顔を見て、荒船は隣にいる当真の機嫌が上昇するのを肌で感じた。
多分今日も顔が良いとか思っているのだろう。当真の結城隊の顔好きは有名な話で、ランク戦の仕組みを無視してまで肩入れしたほどだ。

「くぐいどこにいるか知らないっスか?」
「連絡しても返ってこなくて」

何度か電話やメッセージを送ったが、メッセージの既読すらつかない。
こうなったら後は兄である鴇崎に聞いた方が早い。

「今日弟なら来てないよ。ゲームしたいって言ってたからスマホ見てないんじゃないかな」
「やっぱりか……」
「さっすが」

大体予想通りではあるが、何度聞いても呆れてしまう。くぐいはゲームに対する欲求が強すぎて、任務すらも参加しないことがあるほどだ。
そもそも結城隊が揃っていることの方が珍しいのだが。

「後で家突撃してもいいっスか?」
「いいよ。カレー作ってあるから食べたければ食べて」
「やりっ」

当真が嬉しそうな声を漏らす。数えきれないほど家にお邪魔しており、その中で数えきれないほど鴇崎の料理をご馳走になっている。弟と違って鴇崎はボーダー以外にやっているバイトや大学生活などで忙しく食事に同席することはないが、出かける用事があっても荒船達が訪問すれば作ってから出かけてくれる。しかも外食かと思う程にどの料理もうまい。
弟の方は全く料理ができないので、爪の垢を煎じて呑ませたいぐらいだ。
ちなみにこの話を出水にすると羨ましがられて面倒なことになる。
荒船は僅かに頭を下げた。

「すみません、いつも」
「気にしなくていいよ。俺もあんまり家にいないから、弟みててくれる人がいた方が助かるし」
「ちゃんと飯食わせて寝かせるんで安心してください」
「ぶはっ、ガキ」

逆にあいつがガキじゃなかったことがない。
ゲラゲラと笑っている当真に人の事笑ってる場合かと言おうとして、ふと視線を感じた。
そちらに視線を向けると、こちらを真っすぐに見つめている顔馴染み。
正しくは、鴇崎を見つめている、か。

「鴇崎さん。二宮さんが呼んでます」
「?」

声をかけると鴇崎が振り返って二宮を視界に入れた。
特に約束をしているわけではないようで不思議そうに首を傾げる。

「何だろう…?ごめん、行くね」
「いえ、引き留めてすみません」
「またな、おにーさん」

ひらひらと当真が手を振り、荒船は僅かに頭を下げた。
鴇崎はポケットに手を入れて仁王立ちしている二宮の元へ向かう。

「二宮さん怖ー」
「此処まで圧が来るな」

ただ立っているだけでも無駄にオーラがある人だが、鴇崎のこととなるとより圧を感じる。鴇崎は二宮のお気に入りなので当然か。
隣で当真がポケットからスマホを取り出して鴇崎を盗撮し始めた。

「何撮ってんだ?」
「出水に送る用」
「………泣いて喜ぶ姿が目に浮かぶ」
「あいつも懲りねーからなぁ」

鴇崎の写真は二宮か嵐山とのツーショットが多い。
今回も、鴇崎の写真は嬉しいが二宮とセットなのが複雑と嘆く姿が、出水が眼前におらずとも想像できた。

写真を撮っている当真を置いて、荒船は同級生組のトーク画面にメッセージをいれた。

『くぐい宅集合』




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