米花町に来たけど、怖すぎてダッシュで逃げ帰っただけB





とんとんと腕を叩かれた気がして、意識が浮上した。

「ん…」
「あ、良かった。目が覚めましたか?」

一瞬見慣れない顔に驚くが、そういえば喫茶店に入ったことを思い出す。
目を瞬かせ蒼い瞳を見つめ返す。

「店員さん…?あれ、俺…もしかして寝てました?」
「はい。それはもうぐっすりと」
「すみません!」
「いえいえ。30分ぐらいの話ですし」

少し寝て頭が冷えたのか、店員さんを視ても心に余裕が持てた。
寝かせてくれた店員さんに再度感謝すると、店員さんが俺の頬に触れる。
優しい指先に首を傾げると、店員さんは目を細めて笑った。

「…?」
「顔色、少し良くなりましたね」

そんなに酷い顔をしていたのだろうか。いやでもまだ二徹しかしてないから元気な方だし、店員さんの方が寝て居なさそうな気がする。俺は内勤だから体力仕事無いけど、店員さんは外でのお仕事多いみたいだし。
俺の顔をみて満足そうな顔をしている店員さんに疲れてるのかな?と心配になっていると「あのーちょっとよろしいですか?」と声を掛けられた。

店員さんばかりに気が向いていたが、よく見たらその後ろに知らない人が増えていた。
というか店内に人が沢山いる。
俺に話しかけてきたお兄さんが広げた身分証をみて目を丸くする。

「警察?」
「トイレで殺人事件があったんだよ」
「ぅええええ!!!!???」

少年が全く動揺していない普通のノリで教えてくれたが、どう考えても普通じゃない。
殺人の現場になんて居合わせたことはほぼない。特殊な勤務先ではあるが、安心安全が大前提なので人が死ぬなんて早々ない。いや、多忙で屍になることは多々あるけれども。俺もよく床に倒れているけれども。

「お名前とご職業を教えていただけますか?」

事情聴取をしているようで、俺も素直に名前と、エンジニアであること告げる。お兄さんは律儀にメモを取っているが、そんなことより先程から少年が遺体があるという場所に何度も出入りしているんだがいいのか?素手で触っているけどいいのか?

「ではお勤め先を教えてください」
「え?何でですか?」
「えっ」
「え?」

お兄さんが驚いた声を漏らし、俺も聞き返す。勤め先をこんなところで言う必要ある?任意同行で警察についていくのは構わないが公共の場で職場を口にするのは控えたい。大分特殊な勤め先なので。
俺が渋ると、お兄さんは咳払いをして質問を変えた。

「で、では、何か気が付かれたことはありませんか?」
「何か、と言われても…」
「彼はずっと眠っていましたよ。ね、コナン君」
「うん。僕、お兄さんがこのお店に来た時にはもうお店に居たけど、お兄さん一度も席を立ってないし、ずっと眠っていたよ」

奇しくも二人のお陰で俺のアリバイは立証された。どうあがいても一歩も歩いていない俺が何かするのは難しく、納得してくれたようでお兄さんは別の人へ事情聴取へ向かった。
ちょろちょろと現場を歩き回り、事情聴取へも色々口を出している少年を極力視界に入れない。
知らないより知っておいた方がね、情報はあればあるだけ有利なわけだけど、彼あまりにも遺体を見過ぎていて、それを視る俺のメンタルがついていかない。
というか、他の客をチラ見したら視えてしまった。

「……」
「どうかされましたか?」

何で視てしまったのかという気持ちと、何で殺してしまうんだという気持ちで落ち込んでいると、少年と同じように現場を見て回っていた店員さんが此方に戻ってきた。
戻ってきたという表現もおかしいか。別に俺と店員さん知り合いではないので、店員さんが戻ってくる方が違和感がある。

「気になることがあるなら教えてください。僕これでも本業は探偵でして。何かお力になれるかもしれません」

色々な顔を使い分けているようだが、俺にそう告げる店員さんの顔は、彼の幼い頃の表情とよく似ていて、少しだけ心が動かされた。誰かの力になりたいと思うのに、肩書きや顔がどれなんて関係ないか。
手招きをすると、店員さんはしゃがんで大人しく俺に片耳を俺に寄せる。

「あの、入口側の黄色いリボンをつけた彼女――――」

俺の助言に店員さんは驚いた顔をして訝しんだが、この場を解決させる方が先だと判断したようで直ぐに腰を上げて警察の方へ向かっていった。
後は放っておいても大丈夫だろう。店員さんはかなり優秀みたいだし。

その予想は的中し、犯人は逮捕され事件は終った。
騒がせてしまったお礼にと店側が店内にいた客にコーヒーを配っているが、そんなことより人が死んだんだから今日は店を閉めた方がいいんじゃないかととても思った。
やっぱりこの町変だ…。

今こそ離脱のチャンスとばかりに俺はコーヒーが配られる前に俊敏に席を立って会計をお願いした。
お釣りを返してくれながら店員さんがこっそりと聞いてくる。

「何で凶器の場所、分かったんですか?ずっと寝ていましたよね?」
「ええと……」

何と答えるのが穏便に済むだろうか。彼は一応おまわりさんだし優秀そうだから俺のサイドエフェクトについて教えるのもありかもしれないが、俺の独断では判断できない。何分俺のサイドエフェクトは稀有で、俺のサイドエフェクトを知られると、対になるようなサイドエフェクトを持つ彼のことも知られてしまうかもしれない。
俺はともかく、彼のサイドエフェクトが知られて、彼を危険な目には合わせたくなかった。彼は俺より100倍強いけども。
とりあえず少年がこちらを伺っているのもあり下手なことは言えず、どうしようかと悩むが、スマホがメッセージを受信したので一言断りを入れてディスプレイを確認した。

吃驚しすぎて心臓が口から飛び出るかと思った。
メッセージの送り主は、先程俺に迎えに行くと言ってくれた病院で検査しているはずの隊員。

「すみません!急いでいるのでまた機会があればで!それじゃ!!」
「え!?」
「お兄さん!?」

俺はダッシュで喫茶店を後にして病院に向かって走り出す。
「爆発物に遭遇しちゃって迎えに行くの難しそうです」というメッセージに「直ぐに迎えに行く!!!」と返す。
どこをどう転んだら、俺が殺人事件に居合わせて、彼が爆弾事件に巻き込まれるんだ。

俺の住んでいる三門市もこの地球の外からの襲撃にあっており到底平和とは言い難いが、この米花町の方がよっぽどやばい。何処にいても危険すぎる。気をつけていてもどうにもならない事に巻き込まれる率が高すぎる。
最新の医療技術に誘われてこの町へきてみたけれど、こんな場所にある病院になんてうちの可愛い隊員を通わせられない!と俺が病院に向かって走っていると、隣を何かが並走してきた。

「ヘイ!よければ俺と天国にいかない?とっても気持ちくしてあげる!」

ネクタイと靴下だけを身に着け、後は何も身に着けていない男が隣を走ってきて、よく遭遇するいつもの変態なのに米花町という土地にナーバスになり俺はつい熱く叫んでしまった。

「バカヤロウ今お呼びじゃねーんだよ!!!!」

思わずトリガーを起動して身体能力を高めたけど、三門市の外で私用で使ってしまったのって、これって始末書かな?






おわり

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