米花町に来たけど、怖すぎてダッシュで逃げ帰っただけA







ボックス席に通されて俺は速攻机に突っ伏した。面倒事、というかこれ以上深くは二人のことを知りたくなくてお邪魔しましたと秒で逃げようとしたのだが、華奢なふりして剛腕な店員さんに腕を、メガネの少年に服の裾を握られて、逃亡に失敗した。
変態はよくほいほいしてしまうが、あからさまにヤバい二人もほいほいしてしまって泣けてくる。毎日徹夜してお仕事こなしているのに、日頃の行いがこんな形でかえってくるなんて…平穏な人生が欲しい。

「ご注文はどうされますか?」
「…アイスティーをお願いします」
「軽食はいかがですか?ハムサンドがおススメですよ」
「いや…もう、なんていうか……お腹いっぱいです!!!」

お兄さんの過去でお腹いっぱい過ぎてこれ以上は倒れる。行儀が悪くとも今は店員さんを視たくなくて、机に突っ伏したまま俺がぶんぶんと力強く首を横に振ると、店員さんは一旦諦めてくれたのか飲み物を用意するためにその場から離れた。
足音が遠ざかるのにほっとして、僅かな安寧を味わおうとしたが。

「ねーねーお兄さんどうしたの?安室さん…さっきの店員さんと知り合い?」
「……何でキミ、相席してるの」
「えへへ、お兄さんの事が気になっちゃって」

対面の席から聞こえてくる声に俺は戦慄した。この子ナチュラルに相席してくる…!
もう絶対に顔を上げられなくなって俺は一刻もはやくここから去りたいと、そのままの姿勢でスマホを取り出して、病院で検査中の可愛い俺の隊の隊員にメッセージアプリでヘルプを飛ばした。
終わったら直ぐに迎えに行きますね、という返事が来てマジで頼むと号泣しているスタンプを幾つか飛ばしておく。
難病に侵されている隊員の病院での検査に付き添いでこの町に来たのだが、完全に俺の方に付き添いが必要だった。
っていうか少年のいうアムロさんって誰だ。あの店員さんはフルヤレイさんだろ。

「お兄さん顔上げないの?」
「……具合悪くて」
「ふーん……。それでお兄さんは何処からきたの?この辺じゃ見かけないね。お仕事は何してる人?肌白いし、ひょろひょろしてるから外に出るお仕事じゃなさそうだね。あと、さっきなんで安室さん見て固まってたの?知り合い?もしかして―――同業者とか?」

怒涛の質問攻めに、四徹したとき並みの疲労を感じてげっそりする。変質者に遭遇した時は塩対応とダッシュであしらっているが、こういう探る気満々の子供に対してどうしたらいいのか分からない。
俺が言葉につまっていると、机にことりと何かが置かれた。ちらりと視線を向けると、アイスティーのようだ。流石にずっと伏せているわけにもいかず僅かに顔を上げてどうもと会釈する。

「コナンくん。初対面の人に失礼だろう?」
「あはは…ごめんなさーい」
「でも僕も気になります。僕の記憶が正しければ貴方とは初めてお会いしたと思うのですが、先ほどは何故僕を見て固まったんですか?」
「…突然顔の良い人に遭遇してしまって、びっくりしてしまい…?」
「それはそれは…。光栄ですね」

壮絶な人生を送っている店員さんは少し照れたように頬をかいて笑った。この笑みも演技なのだろうか。
俺の苦し紛れの言い訳では当然子供は納得してくれない。

「本当にー?それぐらいであんな風になるかなー?」
「……普段顔見知りに囲まれて引きこもって仕事してるから、知らない人に、なれてなくて」
「引きこもって仕事?何のお仕事してるの?」
「……主にエンジニア、だよ」
「エンジニアってことは技術者だよね。何系の業種?」

鋭い視線と低くなった声に、本当に小学生じゃないんだなぁと場違いに思った。むしろ隠す気はあるんだろうか。とても気になるけれど、麻酔でぶすっと一発おやすみなさい案件が嫌すぎたのでお口チャックした。
勤め先は年下が多いし、若い子は苦手じゃないと思っていたんだけど、少年を前にしたら自信無くなってきた…。
俺がほとほと困り果てていると、見かねた店員さんが助け舟を出してくれる。

「ほら、コナンくん。困らせたらダメだよ。元の席に戻ろうね」
「…はーい」

店員さんに促されて渋々少年が目の前から移動してくれた。漸く追及がなくなりあからさまに俺はほっとする。視たくないものが視えなくなってよかった。

「コナン君も悪気があったわけではないのですが……不躾でしたよね、すみません」
「いえ、あの、ありがとうございます」

俺が少年の追及に疲弊していると思っているであろう店員さんへ視線を向ける。そこで俺は彼が今はアムロさんであることを知った。
忙しいんだなと納得し、何はともあれ助けてくれたことには変わらないので感謝すると、店員さんはにこっと眩しいスマイルをくれた。

「ゆっくり休んでいってくださいね」

あれ、おれのしってる29さいのひと、こんなにさわやかで、わかわかしくない

脳裏に誰が過ったかは秘密だ。




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