2017クリスマス・下





影浦隊の隊室の扉を壊す勢いで、隊室に飛び込む。
実際には壊れる前に扉が開くから壊れないんだけどね、あと扉が空かなかったら俺が逆に吹き飛んでた可能性あるから。トリオン硬い。

「おまたせせせ!」
「やっときたか」

俺が部屋に入ると、既に全員揃っていた。
時間通りに来たと思ったのだが、お前ら楽しみにしすぎ…なわけではなく、開始時刻前からごろごろしていたのだろう。

「たいちょーのところに寄ってた」
「…クリスマスも仕事か、つぐみさんは」
「うん」

何故か入り口で腹筋をしていた穂刈に頷き、室内に足を踏み入れると、何かに横から突撃された。

「くぐいー!」
「うぎゃ」
「プレゼントは、お・れ……ぐっ!」
「うるせぇ」
「黙れ」
「いてぇ……両サイドからの拳……」

瞬時に救出された。
何が起きたか理解できなかったが、腹を押さえて蹲るわんちゃんと、仁王立ちする荒船とカゲに、なんとなく察する。
炬燵で既にぬくぬくしているゾエに手招きされてそちらに向かう。

「あの人危ないからこっちおいで」
「う、うん…わんちゃん年々やばくなってない…?」
「俺らも犬飼の思考がよくわからない」

苦笑いを浮かべる村上に、わんちゃんはもう救えないのだと悟った。
俺は炬燵でぬくぬくしているとーまの傍にいく。
人数が多いから炬燵は取り合いで、ソファーや椅子にそれぞれ座ることもあるが、俺は炬燵がいい。

「とーまいれて」
「ほいよ」
「ありがと、やっぱ炬燵最高だよね、影浦隊になる。ならない」
「訂正の速度がはえーよ」

とーまの膝の間に入れてもらって、天板に頬をつける。温かい。
とーまはほら、無駄に足が長いから俺を間に入れても狭くならないのだ。全然俺が小さいとかそういう話ではない。
カゲが俺の頭を軽くはたき、隣に入る。

「何飲む?」
「メロンソーダ!」
「だと思った」

ゾエが卓上のペットボトルからコップに飲み物を入れてくれる。ありがたし。
村上が予め用意されていたピザやポテトを天板に置いていく。

「ご機嫌だね」
「そりゃまぁね。いろんな人が色々くれるし、それになによりも」
「何?」

乾杯の前に飲み物に口をつけようとするとーまを、荒船が眼光で制する。怖い。眼差しで殺せる。
炬燵からあぶれて対面のソファーに座ったわんちゃんが俺の顔を見て首を傾げた。

「なんと!なんと今年は!ついに!」
「勿体ぶるなって」

後ろでとーまが愉快そうに笑うと、俺にもその振動が伝わる。
俺は拳を天に突きあげる、俺はついに、念願の、悲願を、達成しました!

「夜にお兄の作ったクリスマスディナーとたいちょーの作ったクリスマススイーツを貪り食う会……隊でのクリスマス会があります!!!!」
「ずっりぃ!!!」
「うわぁいいなぁ」
「は?豪華すぎだろ…」
「せやろせやろ????羨ましがってくれよ!!!」

その場にいる18歳勢が一様に羨ましいそうな声を漏らす。
そうだろうそうだろう、羨ましかろうと、俺は皆の反応に至極ご満悦だ。

「毎年くぐいは夜は家族行事あるって言ってたけど、今年はないんだ」
「家族行事なんてそんなものより、たいちょーが作ってくれるスイーツを貪り食う方が大切」
「お前大して食えないだろ」
「うるさい」

毎年、たいちょーは仕事が忙しいしヒワさんは入院だし、俺たち兄弟は家族行事で国外、というのが通例だった。
でも今年はずっと前からたいちょーが頑張って調節してくれて、ヒワさんの体調も万全で、そうなったら国外とか言ってる場合じゃない。
隊での、クリスマス、クリスマスー。お兄のご飯と隊長のケーキー。

「俺とヒワさんが幸せになる時間が待ってるからー楽しみなの。ってことで俺あんま食わないから、ゾエくん頼んだ」
「ええー…複雑だなぁ」

今あんまり食べると夜が食べれなくなってしまう。
どうせなら夜にいっぱい食べたいし、今の時間はご飯を食べるっていうより、18歳でわちゃわちゃする時間だから。

「純粋に羨ましい」
「つぐみさん忙しくて毎年クリスマスなんてないって言ってたし、揃ってってのは良い話ではあるけどな…」
「複雑だ…」
「まぁまぁ、例年通り昼間は俺らと一緒なんだからいいじゃないか」

18歳のクリスマスは大体日中だ。
任務とかあるし、家族や隊で祝うやつも多いから、毎年この時間に炬燵のある影浦隊の隊室を餌食にしている。

「くぐい、後で夜の貪り食う会の写真を横流し」
「おっけまかせろ」

後ろから聞こえたとーまの言葉に力強く親指を立ててると、俺もという声が続けてくる。
みんなに送るよと頷いたところで、皆に飲み物がいきわたる。
荒船せんせーの音頭と共に、18歳の忘年会兼クリスマス会は始まった。



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