ピンチに駆け付ける






生駒が交わしきれず直ぐそばまで迫ったその刃を、代わりに風間が下から切り落とす。

「うお!?あ、ぶな!!!」
「生駒、無事か」
「無事やないです!!!俺の大切な何かを奪われよったと思います!!!」
「無事だな」

生駒が口でなんと言おうと五体満足であれば無事だ。
むしろ先程一撃もらってしまった風間の方が無事ではなく、腹部から漏れ出るトリオンに後どれくらいで活動限界に陥るか予測する。このままでは明らかに不味い。

「なんでこう、急拵えの時に限って…」
「文句を言っても仕方がないだろう……堤は離脱したか」
「えー!?この状況でさらに減るんキツいわー!ヤバイヤバイ!!!」
「あちら側が不味いな」

状況はかなり劣勢だ。と言うのも、普段の防衛任務は隊で動くものだが、現在とあるボーダーの作戦の試験運用のため隊の編成が変えられていた。それぞれの連携がうまく取れない中に、突如訪れた近界民の兵器達。増援を求めても現在は夜間のため直ぐに出動できるものが足らず、待機も含めて四方に動けるものが数人ずつ派遣されているのみだった。
東、諏訪が受け持って居る方角はまだ無事のようだが、堤の受け持った方角がかなり苦戦しているようだ。このままたたみ込まれて全員が離脱し、誰も防衛できなくなると、住宅地へと被害が出る可能性がある。
動かせる人員は限られており、かつ手負いの風間が残ったところで活動限界がある。ならば動くのは風間の方だ。

「仕方ない、数を減らしたくないが、進行されるとそれはそれでマズイ。此処は二手に分かれて……生駒!!!」
「ッ」

油断した。生駒の後ろから高速で敵が飛び出してくる。防げない、そう風間も生駒も思った。

「………?うん?」

しかしそれが生駒を攻撃するより先に、何かに狙撃されて破壊され、動かなくなる。
ガンナーやスナイパーは風間達へはつけられていない、では誰が、確認する必要もなく、その人は空から降ってきた。

「無事かな?生駒くん、風間くん」
「!!つぐみさん!!!!」

ボーダーの敷地内とはいえ、本部の外にいる姿を見たのは久しぶりだ。
本部でエンジニアをしており、連日連夜、それこそいつ休んでいるのか分からないほどに働かされているこの人は、ただでさえ忙しいのに、前線で隊長なんてものもしており。この人出の足らなさ具合からして、駆り出されたのだろう。上層部は、猫の手も借りたい時に、直ぐにこの人を使いがちだ。器用で何でもできてしまうので、便利なのだろう。つぐみは珍しく換装体で、隊服を纏っていた。

「ホンマありがとう!!!つぐみさんは俺の命の恩人や!!!!つまらないもんですけどお礼に俺を受け取って」
「生駒くんを助けたのは俺じゃなくて、向こうにいる弟くんね」
「マジっスか!?やっぱ俺愛されてるんちゃう!?くぐい、俺と結婚せーへん!?」
『あー敵じゃなくてイコさん撃ち落とすべきだったかー』
「くぐいの愛は素直やないからなー」
『荒船起きてっかな』
「不穏がすぎんねん冗談やってば頼むから荒船は呼ばんといて俺がどうなってしまうか分からんから」
『あ、荒船起きてた』
「死んだわ、これは俺無事終了のお知らせや」

てっきりつぐみがまた新しいトラップでも作り出して撃ち落としたのかと思ったが、もう一人自隊の隊員であるくぐいを連れてきていたらしい。
向こう、とつぐみが指差した方角を見ても、スナイパーの影は見つけられなかったが、エグい程長距離の狙撃を得意とするくぐいならば可能だろう。

「つぐみさん」
「風間くん、間に合ってよかったよ。堤くんが落ちた方は鴇崎くんが行ったから安心して。諏訪くんの方はヒワちゃんが様子見に行ったし」
「ありがとうございます。珍しいですね、全員居るなんて」
「いや一応偶には隊っぽいこともしとかないと…」

四方に散ったそれぞれの元へ自隊の残り二人を向かわせたらしい。それであれば安心だ。つぐみの隊の人間は、隊としてももちろん強いが、個々の強さが別格だ。現場に残った隊員と連携して上手いことやるだろう。

『俺らが全員揃ったからこんなことに…?』
「不吉の象徴みたいな扱いやめなさい」

くぐいの言葉にふっと思わず笑ってしまう。確かにつぐみの隊は、個々が忙しく全員が揃うことが先ず無い。ボーダー内で順位をつけるランク戦ですら長らく不参加を通していた隊だ。通常であれば注意されるところだが、個々が強く隊の人数が変動したところで戦力が下がることがないため見逃されている。まぁ隊長であるつぐみは私情ではなく本部の別の仕事で忙しく、ヒワは体調に関することなので、強要はできないのだが。そのため全員が揃っているところは大変貴重で、揃っていると良いものが見れたと喜ぶものが多い。確かに珍しすぎて、くぐいが言う通り雨か槍が降るというのも当てはまる。

「弟くんはこのまま風間くんと生駒くんのサポートで』
『りょー』
「りょ……???」
『りょうかいしたであります、の、りょ』
「ああ、そういうやつね……」

若い子の言葉は難しいとつぐみは呟くと、家屋の屋根へと飛んでそのまま姿を消した。
やり取りからして、くぐいだけ残してつぐみは移動したようだ。
風間と生駒は顔を見合わせて、そして残されたくぐいに問いかける。

「つぐみさんは?」
「一人で大丈夫なん?」
『ヒワさんと討伐数競ってるからフリーで動くんだってさ』
「地獄の遊びやな」
「くぐいはどっちに賭けた?」
『ぐへへ秘密です』
「笑い方、急にカワイないやん」

そう時間はかからず敵は全滅するだろう。ご愁傷様と気の早い生駒が手を合わせているが、あながち間違いでもない。鴇崎とくぐいがそれぞれ穴が空きそうな箇所をカバーしている間に、そのほかの箇所から敵を壊滅させて行く気だ。かつてあの太刀川を負かしたヒワと、そのヒワと肩を並べていたつぐみが本気で討伐数を競うなど、もはや賭け事にしかならない。現にもうぐぐいは自隊の話なのに賭け事に興じているようだ。気をぬくなと言いたいところだが、この状況でのボーダーの負け筋はブラックトリガー所持者が複数現れることぐらいで。そんな貴重なブラックトリガーがほいほいと投入されるわけがない。こうなれば残りの人間は消化試合のようなものだ。

風間の元へ諏訪から通信が入り、開口一番「どっち?」と聞かれたので、そういうことだ。





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