4 わざわざ俺はご足労して、玉狛までやってきた。 遠慮?そんなもの俺にはないさ! 玉狛のリビングの扉をバーンと開ける。 「たのもー!おじゃましまーす!」 「げ」 「あ、くぐい先輩いらっしゃい」 中にいた二人は正反対の表情を浮かべている。 嫌そうな顔をしたのが小南で、朗らかに笑ったのが宇佐美。 俺は宇佐美にひらひらと手を振って、小南ににやにやと笑いかける。 「お、小南。人の顔を見て嫌そうな顔をするなんて先輩に対して失礼千万だな」 「私の方が先にボーダーにいたし、こんなチビなやつが先輩なんて…!」 「ほう、風間さんに対する冒涜か?」 「違うわよ!!!あんたに対してよ!!!!」 小南が猫のように怒る。頭についている羽が立っていて、相変わらずからかいがいがあるなぁ。 俺は神妙な顔で手にしていた紙袋をちらつかせる。 「ふむ…そんな可愛くないことをいう小南にはお土産の売り切れ御免の三笠山の限定どら焼きはやれないなぁ」 「な、な!なによ!べ、べべべべ、べつに要らないわよ!」 そんな動揺した口調で言われても説得力はない。おまけに目もめっちゃ泳いでるし。 しかし俺は残念ながら鬼なので。 「そうなの?じゃあよーたろーに二つやるかなぁ」 「あ……」 どこかに行っているようで不在のよーたろーにくれてやろうかと零せば、小南の顔が切なそうな表情を浮かべた。 小南の百面相に、宇佐美が肩を震わせて笑っている。 俺も内心にやにやで遊んでいると、リビングの扉が開いた。 「くぐい。外まで聞こえていたぞ、あまり小南で遊ぶな」 「木崎さんお久しぶりでーす!あれやってくださいあれ!」 現れた木崎さんに俺はぱっと近づく。 本部にいるときは大体諏訪さんをからかっているのを諫められることが多いが、別に仲は悪くない。 むしろいい方だと思う。 「わーい」 木崎さんの腕にぶら下がって上げ下げしてもらう。 さすがムキムキマッチョ!俺を腕につりさげても全くびくともしない! 俺がきゃっきゃと喜んでいると、女子二人から対照的な視線を感じた。 「ホント、ナチュラルに子供ね…。あれが18歳なんて世も末だわ…」 「くぐい先輩って本当に存在がファンタジーって感じだよねぇ」 ひとしきり堪能してから俺は持ったままだった紙袋を木崎さんに差し出す。 どら焼きが結構重くてさっさと手放したいと思ってたんだった。 「そうだ。これどら焼きと、あとうちのたいちょーからの差し入れです」 「え!?つぐみさんからの差し入れ!?」 「小南の分はないけどな」 「え!?」 「嘘だよ」 「もぉおおおお!!!あんたってやつはぁあああああ!!!!」 「アハハハハハハハハ」 うちのたいちょーは本部だけではなく玉狛でも大人気なのであった。 小南に首根っこ捕まれてがくがく揺さぶられる。玉狛にきたらまずは小南をからかっておかないとね。 俺は揺さぶられながら、今日わざわざ賄賂まで持ってきた用事を済ますため、目的のものがどこにいるか木崎さんに問いかける。 「ところで空閑います?」 「嗚呼、此処にいないなら多分屋上にいると思うが」 「あざっす」 宇佐美が俺から小南を引きはがしてくれて、小南のお怒りを背に、俺はリビングを後にした。 玉狛支部の屋上から、夕陽が綺麗に見えることぐらい知っている。何故なら俺は最初玉狛支部所属だったからだー。 そんな話はともかく、縁に座る二つの影に声をかける。 「くーがー。みくもー」 「くぐい先輩?」 「こ、こんにちは」 二人は振り返って驚いた顔する。 そんなに俺がここにいるのびっくりする?え、本部の人間ってここ来ちゃダメなの? 「どうしたんだ?玉狛に来ることなんてないのに」 「俺そういえば空閑の連絡先知らないやーって思って足を運んだ」 「……おお、確かに。ゴソクロウいただきアリガトウゴザイマス」 「どういたしまして」 よく難しい日本語が言えたなと褒めるように空閑の頭を撫でてやる。 空閑はありがたきシアワセと古風な言葉で喜びを表現していた。うむ苦しゅうない。 「実は本日、空閑にご協力いただきたいことがあって参りましたー」 「え?」 「ほう?」 首を傾げる二人に、俺は春の風に負けないくらいすがすがしく笑いかける。 「俺と一緒にちょっと馬鹿共を捻りつぶしてくんない?」 |