辻が昇降口で靴を履き替えていると、数名の女子がパタパタと外から走って入ってきた。
彼女たちがその場で立ち話をはじめるので、聞く気はなくとも辻の耳にその内容が入ってくる。

「ねぇねぇ。さっきの子、誰待ってるのかな」
「弟とか?」
「えー、誰かに似てる?ぜんぜん分かんない」
「うちの学校の制服じゃないよね」

誰かが外でこの学校の生徒を待っているようだ。
なんとなく胸騒ぎがした辻は小走りで昇降口を出る。
校門前の車止めの柵の上に座る、小さな人影。
いつも首から下げているヘッドフォンを耳にして、ぼんやり校舎をみているようだ。
他所の学校の制服はここではかなり浮いている。

「…何してるんですか」
「あ、辻ちゃん。良かった。待ち伏せした甲斐があったよー」

辻の存在に気が付いたくぐいがヘッドフォンを頭から首へと下す。
待ち伏せしていたというその言葉に、辻は首をかしげる。

「それならラインしていただければすぐに」
「うーん、誰でも良かったんだよね。声かけてくれた人にしようと思ってただけだし」

誰でも良かったとはどういうことか。
いつもくぐいがこちらに足を運ぶことはない。
荒船や犬飼が向かいに行くことは多いようだが、こんなところで見かけたのは辻の知る限り初めてだ。
犬飼が羨ましがるだろう。羨ましい、だけで済むかはわからないが。

「でも辻ちゃんでよかったー」

その言葉は、喜んでもいいのだろうか。
どう反応すればいいのかわからず閉口する辻をよそに、くぐいは柵から立ち上がる。

「辻ちゃんスタバ好き?俺は好きだから、ちょっと付き合ってよ」

くぐいはそう言って歩き出す。
少し迷ったが、辻は大人しくついていくことにした。
今日は任務はないし、周りが興味深そうにこちらをうかがって居たたまれなかった。








ソファーに沈むくぐいの向かいで、辻はコーヒーを飲む。
くぐいは期間限定のメロンのフラペチーノを嬉しそうに飲んでいた。
こうして改めて二人でカフェに訪れたことはなく、イレギュラーな予定に少しドキドキする。
辻のことを気に入っていると言うくぐいだが、だからといって他の人間と扱いが何か違うわけではない。

「辻ちゃんって学生生活どうやっておくってんの?女子、隣に座ってるんでしょ」
「極力話しません。クラスメイトは苦手だって知っているので向こうから話しかけてくることもないので」
「へぇ…恵まれてるんだか、空しいと感じるべきなのか」

そう言って、くぐいは飲み物と一緒に買った桃を使った新作のケーキをフォークで掬った。

「あ、これうまい」
「ください」
「やだ」

間髪入れず拒否された。
その後辻が口を開く前に、くぐいが言葉を続ける。

「俺のお願い聞いてくれたらいいよ」
「……待ち伏せはそういうことですか」
「だいじょぶだいじょぶ、そんな面倒じゃないよ」

そもそもお願いしてくること自体が珍しいことなので、面倒ごとであるとは思っていないが。
くぐいはいっそ清々しいほどの笑顔を見せた。

「馬鹿を捻り潰すだけの遊びをするだけだから」







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