10 米屋が駆けつけると、丁度緑川が空閑の一撃を防ぎ、そこに辻が追撃を仕掛けようとしているところだった。 槍のリーチを利用して、辻の弧月を弾く。 米屋の登場を警戒したのか、空閑も辻の位置まで下がった。 槍を構えてちらりと緑川をうかがう。見たところ、まだかすり傷ほどだろう。 「わりっ、待たせた」 「よねやん先輩おそいー!」 「すっげー走ってきたって」 緑川がきゃんきゃん喚くのを笑って流し、辻と空閑に視線を戻した。 「お、これで2対2だな」 「空閑、予定通りいくぞ」 「了解デス」 予定通り、という言葉が引っ掛かったが、考えても分かる頭は持っていない。 空閑がグラスホッパーを使用して、空を駆ける。そちらに一瞬意識を持っていかれると、辻が米屋をぬけて、緑川を狙おうとする。 機動力の高い方から落とすつもりのようだ。 米屋はとっさに槍を持ち替えて、辻の足を狙う。 当然、確実に落とすには少し足らなかったが、牽制にはなったようで、辻が眉を顰めて、足を止める。 「っぶねー」 「……米屋」 辻と空閑が組んで緑川を落としに行けば、緑川はひとたまりもないだろう。 一瞬、どちらの相手をするか悩んだが、緑川は完全に空閑を狙っているし、辻相手だとどちらに転ぶかわからない。 米屋が辻を狙い、落とした方がはやいだろう。 アシストのうまい辻だが、1対1であれば米屋の方が今のところ勝ち越している。 「辻は俺が相手するから、緑川は白チビを相手しろ」 「りょーかい!」 緑川が空閑に飛びつき、米屋は辻に向かった。 弧月通しである以上、刃の強さは関係ない。 最近は足狙いの米屋は、槍を短めに持ち、足を狙いに行く。 弧月使いである以上、空閑のように身体から生やすことはできない。足が取れれば落とせたも同然だ。 米屋が一歩踏み込んで槍を振りかぶったところで、国近からの通信がはいった。 『狙撃!』 「っ、このタイミングで!?」 緑川か、米屋か、どちら狙いか。 慌てて下がって空を見上げたが、着弾ははやかった。 地面に刺さるように落ちてきた弾に、外したのかと一瞬思ったが、瞬く間に視界が白い煙に覆われた。 「煙…!」 「煙幕!?」 米屋と緑川の困惑した声が響く。 辻と空閑から驚いた声が上がらないと言うことは、計算通りということか。 周囲が見えなくなり、お互いの位置関係どころか、立地も把握も怪しい。 下手に動けなくなった米屋の耳に、緑川の声が聞こえてくる。 「こんなのグラスホッパーで」 『緑川飛んじゃだめ!』 国近の制止が聞こえた。 |