「忍田さん!あけましておめでとうございます!お年玉ください!」
「…第一声がこれか…」
「?」

勢いよく差し出された手に忍田はため息をつきたくなった。
いや、毎年恒例なのだけれど、何度体験しても新年一発目の挨拶がこれなのは悲しい。
忍田はしゃがんでぬえに差し出す。

「あけましておめでとう。ほら。去年はよく頑張ったな」
「やった!」

まだ小さいぬえには給与というものは存在しない。
そのため、月々のおこづかいと、こうして年始にお年玉ということにして1年の頑張りの還元をしている。
このお年玉を渡しているのが忍田だけなのかは怪しいが。

「何かそんなに欲しいものがあったのか?」
「あります!」

力強いぬえの言葉に忍田はそうかと笑った。
今までは聞いても「将来のための貯蓄」とか子供らしからぬことを言ったので、誰がそんなことを教えたのかと頭を抱えていたのだが、今年はきちんと使い道があるらしい。
ぬえは周囲を見回して誰もいないことを確認し、忍田にそっと耳打ちする。

「城戸さんに眉間の皺がとれるようにホットアイマスクと」
「え…」
「鬼怒田さんには甘いお菓子でしょ、林藤さんと最上さんは面白パーティーグッズで、根付さんはボーダーのグッズ、唐沢さんはー…コーヒーとか?」

まさかの展開に唖然とする。
驚く忍田に何を勘違いしたのかぬえが焦ったように追加した。

「あ、忍田さんの分もちゃんと考えてます!」

そんなことは心配していなかったが、気持ちはありがたく受け取るとして。
忍田は頭をかかえる。
なんでだ、そういうことじゃない。

「ぬえ」
「なんですか?」
「それはお前のお年玉なんだから自分のためにつかいなさい」
「なんで?俺がそうしたいからそうしてるんです!」
「……気持ちだけでみんな嬉しいよ」
「???」

首を傾げるぬえに忍田は胃も痛くなってきた。
誰だ、この子にこんなことを教えたやつは。
確かに年始一発目にお年玉をねだられたのはなんだかなと思ったが、他人の為に使ってほしくない。そんな気遣いは、まだしなくていい年頃の筈だ。
忍田はぬえの小さな頭をなでる。

「ならこうしよう。それを自分の為に使って、何か買ったときは見せてくれ。それでみんなもうれしいし、元気になる」
「????」

全く理解できていないぬえは大きく首を傾げるが、結局は忍田の案を受け入れてくれた。

しかし後日買ってきたのは大量の大入り袋のお菓子でなぜかと聞いたら「みんなで食べられる!」と力強く答えられて、嬉しいやら悲しいやらで複雑な気持ちになった忍田だった。



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