鍋の前に立つぬえがおせちを机にならべている出水に声をかける。

「出水くんお雑煮に入れるお餅いくつにする?」
「2つ、あ、でも3つ………」
「とりあえず2つにしようか。まだ食べられそうだったら追加しよう」
「はい!」

ぬえの笑顔に出水は勢いよく頷く。
大晦日から仕込みをしていたぬえの手作りのおせちとお雑煮が楽しみだ。

「嵐山にお餅いくつにするか聞いてくれる?」
「はい」

出水は椅子から飛び降りて玄関にいる嵐山の元へ向かう。
嵐山は年始の飾りを玄関につけているところだ。
リビングの扉を開けると廊下はひんやりと寒くてぶるっと身体が震えた。
出水は扉から顔だけ覗かせて声をかける。

「あらしやまさん、おもちいくつにしますか?」
「お、そろそろ食べるか?とりあえず3つでよろしく」
「はい」

返事をきいてさっとリビングの扉を閉める。
冷気を遮断してほっと一息ついた。
そしてキッチンにいるぬえに声をかける。

「ぬえさん、3つです」
「ありがとう」

出水は、キッチンの中へは入ってはいけないと言われている。
前に勝手に入って、鍋をひっくり返してしまったことがある。
出水を庇ってぬえがやけどをおったあの時から、出水は駄目だと言われたことには絶対にしないと決めていた。
リビングの椅子に座ってぬえが来るのをじっと待つと、嵐山が戻ってきた。

「ぬえ、おわったよ」
「うん、ありがとう」

嵐山はさりげない動きで、ぬえが用意したお雑煮がはいった茶碗を受け取り、机に並べる。
出水はそれを見て、面白くなくて頬を膨らませた。
ぬえを手伝っていたのは出水なのに、嵐山にとられてしまった。
出水が拗ねても、この二人は鈍感だから全然気が付いてくれない。
二人して不思議そうに首を傾げる。

「ん?」
「出水、どうした?」
「……なんでもないです!」

やっぱり嵐山はライバルだと、密かに闘志をもやす出水だった。


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