ぼとぼとっと二つの塊が目の前のソファーに落ちてきて、俺はびっくりして東の腕にしがみつく。

「ひっ!?」
「っ、びっくりしたな」

東も珍しく驚いた声をもらした。
ソファーの上には面白そうにげらげら笑っている二人の子供。
俺と東はそろって目を丸くして、そして天井を見上げる。

「何々、どっから落ちてきたの?」
「あの天井の格子を伝って遊んでたのか…?」
「こわっ!命知らずすぎない!?」

確かに天井には格子状の装飾がついていた。
それにしたって、元気にもほどがあるだろう。なぜあそこで遊ぼうと思ったのか。
あまりの無鉄砲に肝が冷えた。ここにソファーがなかったらどうなっていたか。
もう一回やりに行こうとする子供達を確保する。

「はい、ゲット」
「出水と米屋だな」

こんなことをするのはあと太刀川くんぐらいだから。
二人を真正面から見て本当に怪我ないことを確認する。

「怪我はない、みたいだね」
「こら、動き回るな」

バタバタ手足を動かして逃げようとする米屋くんを東が抑えて、比較的静かな出水くんの頭を撫でてやる。
すると向かいのソファーの下に目を丸くしてる子供が潜んでいるのが見えた。

「あ、三輪くん…?すっごい驚いてる」
「目が落ちそうだな」

純粋そうな大きな黒い目は、完全に先程の光景をトラウマに感じているようだ。
まぁ、そうだよな。
人が落ちてきたんだから。

「秀次くん」

俺が手を招くと、三輪くんおずおずとこちらに向かってきた。
俺の前まで来てくれたところで抱きしめると、三輪くんがぎゅっと俺の首に抱き着く。
わー、かわいい。幼児化してるとみんな抱きしめさせてくれるからいいね。
今じゃやったら嫌がられそうだし。

「お前、本当に好かれやすいな」
「俺も初めて知った」
「変態と幼児ホイホイ」
「そう言われると聞こえが悪くて悲しい。前者は要らないし」

幼児だけに好かれたい。いや、それも聞こえが悪いな。
変態以外に好かれたい。よしこれだ。
三輪くんを抱っこして出水くんと手をつなぐ。
東は逃げようとする米屋くんを抑えるのが大変そうで、一度戻ろうという話になった。

片腕での抱っこで俺の手が壊死しそうだ。
幸せだからいいけど。
もっとこうムキムキになっておけばよかったというか、ああ換装体になっておけばよかったと今更そう思った。

「今度の遠征のメンバーに選出されているんだろう?」
「あー、うん。断るけど」
「ヒワを置いていけない気持ちは分かるが、鴇崎達は一度遠征に連れていくべきじゃないか?」
「……そうだなー……」

確かに遠征に行くことは今後の考え方に大きく作用するだろう。東の言う通り、行ってみる価値はある。
ヒワちゃんがいないからって遠征に出る戦力が足らないとか、そういうことはないんだけど。
でもなー。
俺の歯切れが悪いことに東は眉を顰める。

「乗り気じゃないな」
「うーん」
「……やっぱり夜鷹がいないと嫌なのか?」
「いや、そういうんじゃないよ」

夜鷹がいないと行きたくないとかじゃなくて。
遠征に出て、もし行った先で。

「……むしろ逆っていうか」

遭ってしまうのが怖い。
誰にも話さずにいたあの時の事を思い出して、俺は口を閉ざす。

「逆……?……お前まさか、記憶が…」

その言葉に俺はうっすら笑みを浮かべて流す。
もうそれ以上は話す気はなかった。

「鴇崎くん何処に行っちゃったんだろうなー」

我ながら白々しい声だと思う。
それに東はため息をついて俺の頭を軽く叩いた。

「いたっ」
「誤魔化すの下手か」
「脳細胞が100くらい死滅した」
「お前のは有り余ってるから大丈夫だ」
「なにそれ全然嬉しくない」

褒めてるんだか貶してるんだか分からない。
俺がぶすっとすると、腕の中の三輪くんがごそごそと俺の胸に顔をうずめた。
え、寝るつもり…?
穏やかな表情が可愛いから、許した。






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