6 ぼとぼとっと二つの塊が目の前のソファーに落ちてきて、俺はびっくりして東の腕にしがみつく。 「ひっ!?」 「っ、びっくりしたな」 東も珍しく驚いた声をもらした。 ソファーの上には面白そうにげらげら笑っている二人の子供。 俺と東はそろって目を丸くして、そして天井を見上げる。 「何々、どっから落ちてきたの?」 「あの天井の格子を伝って遊んでたのか…?」 「こわっ!命知らずすぎない!?」 確かに天井には格子状の装飾がついていた。 それにしたって、元気にもほどがあるだろう。なぜあそこで遊ぼうと思ったのか。 あまりの無鉄砲に肝が冷えた。ここにソファーがなかったらどうなっていたか。 もう一回やりに行こうとする子供達を確保する。 「はい、ゲット」 「出水と米屋だな」 こんなことをするのはあと太刀川くんぐらいだから。 二人を真正面から見て本当に怪我ないことを確認する。 「怪我はない、みたいだね」 「こら、動き回るな」 バタバタ手足を動かして逃げようとする米屋くんを東が抑えて、比較的静かな出水くんの頭を撫でてやる。 すると向かいのソファーの下に目を丸くしてる子供が潜んでいるのが見えた。 「あ、三輪くん…?すっごい驚いてる」 「目が落ちそうだな」 純粋そうな大きな黒い目は、完全に先程の光景をトラウマに感じているようだ。 まぁ、そうだよな。 人が落ちてきたんだから。 「秀次くん」 俺が手を招くと、三輪くんおずおずとこちらに向かってきた。 俺の前まで来てくれたところで抱きしめると、三輪くんがぎゅっと俺の首に抱き着く。 わー、かわいい。幼児化してるとみんな抱きしめさせてくれるからいいね。 今じゃやったら嫌がられそうだし。 「お前、本当に好かれやすいな」 「俺も初めて知った」 「変態と幼児ホイホイ」 「そう言われると聞こえが悪くて悲しい。前者は要らないし」 幼児だけに好かれたい。いや、それも聞こえが悪いな。 変態以外に好かれたい。よしこれだ。 三輪くんを抱っこして出水くんと手をつなぐ。 東は逃げようとする米屋くんを抑えるのが大変そうで、一度戻ろうという話になった。 片腕での抱っこで俺の手が壊死しそうだ。 幸せだからいいけど。 もっとこうムキムキになっておけばよかったというか、ああ換装体になっておけばよかったと今更そう思った。 「今度の遠征のメンバーに選出されているんだろう?」 「あー、うん。断るけど」 「ヒワを置いていけない気持ちは分かるが、鴇崎達は一度遠征に連れていくべきじゃないか?」 「……そうだなー……」 確かに遠征に行くことは今後の考え方に大きく作用するだろう。東の言う通り、行ってみる価値はある。 ヒワちゃんがいないからって遠征に出る戦力が足らないとか、そういうことはないんだけど。 でもなー。 俺の歯切れが悪いことに東は眉を顰める。 「乗り気じゃないな」 「うーん」 「……やっぱり夜鷹がいないと嫌なのか?」 「いや、そういうんじゃないよ」 夜鷹がいないと行きたくないとかじゃなくて。 遠征に出て、もし行った先で。 「……むしろ逆っていうか」 遭ってしまうのが怖い。 誰にも話さずにいたあの時の事を思い出して、俺は口を閉ざす。 「逆……?……お前まさか、記憶が…」 その言葉に俺はうっすら笑みを浮かべて流す。 もうそれ以上は話す気はなかった。 「鴇崎くん何処に行っちゃったんだろうなー」 我ながら白々しい声だと思う。 それに東はため息をついて俺の頭を軽く叩いた。 「いたっ」 「誤魔化すの下手か」 「脳細胞が100くらい死滅した」 「お前のは有り余ってるから大丈夫だ」 「なにそれ全然嬉しくない」 褒めてるんだか貶してるんだか分からない。 俺がぶすっとすると、腕の中の三輪くんがごそごそと俺の胸に顔をうずめた。 え、寝るつもり…? 穏やかな表情が可愛いから、許した。 |