導入 本当にそろそろ過労死とかしそうだ。 寝てるかと思ってたら死んでましたとか、鬼怒田さんに報告されたりして。 その想像が洒落にならなくて、俺は空笑いをもらす。 4徹夜目で軽く頭がおかしくなりはじめているのを自覚する。 一回シャワーでも浴びてこようかな…。 頭をすっきりさせようと俺がデスクから立ち上がろうとしたところで、スマホがぶぶっと震えた。 誰かと確認すれば、弟くんからの着信だった。 弟くんは電話が嫌いなので着信があるのは非常に珍しいことだ。 俺はその電話をとる。 「どうしたー?」 よっぽど困っているのだろうかとちょっと心配になった。 電話口からは、想像以上に弱った声が聞こえてくる。 『たいちょー……どうしよう』 「どうした?」 酷く困惑している様子だ。 とりあえず怪我や、慌ててる様子はなさそうでほっとする。 しかし次の言葉に俺は体が固まった。 『ヒワさんがちいさくなっちゃった……』 え?なにが? なんだって? 俺は一度電話を耳から離して、ちゃんと弟くんからの着信であることを確認する。 声がそっくりさんからのなりすまし電話とかではないはずだ。 幻聴の可能性も視野に俺はもう一度問いかける。 「ごめん、よく聞こえなかった。もう一回言って」 『ヒワさんが、小さくなった』 小さくなったって、どういう、え?日本語がうまく理解できない。 言語の壁かなと俺はとりあえずもう一度聞き直す。 「What?」 『became small』 ものすごく発音よく、同じ言葉を繰り返される。 そこで俺はようやく幻聴ではないことに気が付かされた。 「………………………え?」 ヒワちゃんが小さくなるって、何がどういうことだ。全然わからん。 理解力には自信があるが、さっぱり把握できなかった。 軽く混乱している俺に弟くんは畳みかける。 『物理的に』 「物理……?」 物理ってなに。 俺の理解を振りきれているという結論を出したところで、弟くんの電話の後ろから泣き叫ぶいくつかの声が聞こえた。 甲高い、子供の声。 俺は頭を抱えた。 あ、これ、分かりたくなかったやつだ。 しかしもう後には戻れないし、うちの隊の話なら引き下がれない。 俺は疲れた身体に鞭打って立ち上がる。 「………今どこにいる?」 『ラウンジ』 「直ぐ行くから、絶対に動かないで」 『うん』 弟くんが若干ほっとした声を漏らした。 そりゃ、心細いだろうなぁ。 電話口から聞こえた子供の泣き声や笑い声に、厄介事を覚悟して俺は研究室を飛び出した。 |