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出水が叫ぶ。

「鴇崎さんの…太刀川隊の隊服姿……!!!!」

感激で動きを止めている出水を鴇崎は首を傾げて不思議がった。
そして太刀川の登場に意識がうつったのかこちらへ顔を向けた。

「太刀川さん、よろしくお願いします」
「おお、よろしく」

片手を上げて挨拶をかえす。
聞いた話によると先ほどまで子供に戻っていたらしい。
自分が子供になっていたと聞いてもあまり実感がないが、どうやら大分迷惑をかけたようで、戻ってそうそうくぐいに膝かっくんのやり逃げをくらった。
あまりにもしょぼいが割と精神的ダメージのあるいたずらに太刀川が仕返しをしようとすると「俺は忙しいだよ!馬鹿太刀川さん!」と吐き捨てて逃げた。
相変わらず口の悪いチビだなと思ったが、成程、こうやって他の隊に入れられている状況なら忙しいだろう。
おまけに子守りまでさせられてフラストレーションがたまっていたようだ。

「あと尊くんだけなんですよね」
「そーそー。唯我は親が大喜びらしいから今日いっぱいは子供ってことらしい」

鴇崎とはあまり縁がないので、出水が一方的に好意を寄せているぐらいしか知らないが、結城隊を指名できると聞いて参加しない手はなかった。
本当はヒワかつぐみを指名しようとしたが、ヒワはまだ元に戻っておらず、つぐみにいたっては予約満了らしい。満了ってなんだそれ。
じゃあ出水も戻った事だしと思い鴇崎を指名したのだが。

「出水くん?」
「あー…いまそいつ立て込んでるからそっとしてやっててくれ」
「?」

全く動きをみせない出水に鴇崎は不思議そうな顔をする。
それを出水の気持ちを思いやんわり流してやりながら、太刀川は改めて鴇崎を見た。
いやはや、完璧だ。

「しかしすげーな鴇崎。隊服似合ってんなー」
「ありがとうございます」
「もういっそ入るか?A級1位になれるぞ!」
「ありがとうございます」

A級1位ですといわれて違和感がないくらいにオーラがある。
太刀川隊の誰よりも似合っているのではないだろうか。
気をよくして太刀川が冗談交じりに誘うと、鴇崎はふっと口元を緩めて笑った。

「でも、A級1位にはつぐみさん達となるので大丈夫です」
「…お、言うな」

挑発的な言葉に、太刀川は意外だなとギャップを感じ、そしてにやりと笑い返す。
なんだ、面白い奴だな。

「俺はそういう熱いのは好きだぜ」
「そうですか」
「つかちょっと見直したわ。お前いっつもすました顔してるからそういうのには興味ないと思ってたし」

太刀川が鴇崎の首に腕を回そうとすると、やんわり嫌がって離れた。
ますます愉快になった。嫌がられると追いたくなる。
太刀川が鴇崎にちょっかいを出すと、ようやく復活したらしい出水がロボットのような動きで鴇崎に向き直った。

「あ、の、鴇崎さん!」
「どうかした?」

鴇崎は出水に向かって首を傾げる。
その仕草すら今の出水には毒みたいなものらしい。
目が合わせられないのかちらちらとみている。

「隊服、似合ってます」
「ありがとう」
「おい、出水、その話さっき俺がしたところだぞ」
「太刀川さんは黙っててください」
「思春期かよ!?めんどくせぇやつだな!」

鴇崎に向ける声と太刀川に向ける声に雲泥の差を感じた。
思春期こぇえ…太刀川が戦慄くなか、出水はしおらしく鴇崎に謝る。

「俺、小さくなってた時に鴇崎さんにご迷惑をかけたみたいで、すみません…」
「ううん、全然。そんなことないよ」

鴇崎は雪が解けるような、太刀川が見たとこがない優しい笑顔を浮かべる。
「小さい出水くんすごく可愛かった」そう口にする鴇崎に、出水の動きが完全に制止した。

「おーすげぇ破壊力」

こりゃ騒がれるわけだ。
普通の顔してる時もすげーイケメンだなと思ってはいたが、笑えば破壊力が数値測定不可能なぐらいに人目を惹く。
こんな人間現実にいるんなと太刀川は感心し、出水の頭を軽く殴る。

「青春ドラマみたいだな。おら、とっとと行くぞ、出水」

いつまでもこんなところで出水のコントを見ている暇はない。
そろそろ交代に出ないと忍田に怒られてしまう。
ただでさえ子供になった時に迷惑をかけたようでかなりげっそりしていたので、戦うことしかできない自分はここで挽回しておかないと。
太刀川について鴇崎が、そして少し遅れて出水が歩きだす。
太刀川は鴇崎に声をかけた。

「鴇崎今度飯いかねー?お前結構面白いわ」
「褒められてます?」
「おう、勿論」
「太刀川さん!」
「分かってるよ、お前も連れてくって」
「よっしゃ…!」

小躍りしそうな出水に鴇崎は首を傾げつつ、いいですよと了承した。
誘って一発で飯の約束ができたことを後で二宮に自慢してやろうと思った。

「何好き?」
「特に…」
「鴇崎さん鍋好きですよね」
「あ、うん。お鍋好きかも」
「流石出水、鴇崎のことは詳しいなぁ」
「っ」

余計なことを言うなといわんばかりに出水が太刀川を睨む。
それに太刀川は肩を竦めた。

安心しろ、鴇崎のやつスマホ見てて全然人の話聞いてないから。








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