15 「こらこら、何処行く気なのかな、小南ちゃん」 「米屋くん、そっちは危ないから駄目だよ」 その場から今にも逃走しそうな小南と米屋をたいちょーとお兄が捕獲する。 俺は保育スペースと化している使われていない隊室で寝転がる。 子供が転んでも怪我をしないように布が敷かれていて、この用意周到さ加減、やっぱりみんな暇なんだなと思った。 「つかさー」 辻ちゃんが俺の前で立ち止まってじっと見てくるので、すぐ傍をぽんぽんと叩く。 すると、辻ちゃんは俺のお腹の前に座って、こてんと俺にもたれかかった。 あ、かわいい。 「なんで俺らの隊の任務は防衛じゃなくて子守りなわけ」 そういうと、たいちょーとお兄が振り返る。 二人はきょとんとしていた。 「俺は癒されているので問題ありませんけど」 「嫌なの?」 「嫌なのって言うかー!おかしくないかなこれ!」 米屋と小南をそれぞれ抱っこしている二人はしっくりきすぎていてもういっそ怖い。 うちの隊、子持ちいてがいてもおかしくない…。 というか不満なのはそこじゃなくてだな。 俺はバンバンと床をたたく。 「他の隊は防衛任務じゃん!俺らは隊を離れてまで防衛任務に出てるのに、いざ揃ったら子守りって……子守りってなんだよ!」 「辻くんびっくりしてるよ」 「辻ちゃんごめんね!!!!」 突然大きな音をだしたので驚いたらしい辻ちゃんの目がまんまるだった。 俺はぎゅっと辻ちゃんを抱きしめる。一瞬辻ちゃんは体をこわばらせたが、直ぐにリラックスして体を預けてきた。 可愛い!!やっぱり成長したら結婚してもらお!!!将来も安泰だし!!! 「俺らってなんなの?ボーダー卒業して保育士デビューしたの?」 「こらこら、烏丸くん、服の中に入ろうとしないで」 「佐鳥くん、それは食べられないよ。食べちゃだめだよ」 「俺の話聞いて。つまんなくても聞いて」 人手は足りていたと思えるのだが、人手が足らないとかいう建前で、保育ルームに押し込まれた。 いや絶対監視カメラでこの光景見てにやにやしてるやつらいるだろ。 なんかうちの隊を建前で動かして自分たちの願望を叶えている奴がいる気がする。 俺はもうそろそろ解放されて家に戻ってゲームがしたい。 「迅くん抱っこ?こらこら陽太郎くん、キミは今回は我慢しなさい」 「やだ!俺も抱っこしろ!」 「よーたろー、うるさいぞー」 「ちびはだまってろ!」 「お前の方が100倍小さいじゃねーか」 なぜか林藤さんがよーたろーも連れてくるから子供がさらに増えた。 しかもなぜかたいちょーの周りをちょろちょろしていて、さっきからうるさい。 迅さんを抱っこしたたいちょーがよーたろーを見下ろす。 「陽太郎くん、お手伝いしてくれないかな?今度陽太郎くんが好きなお菓子作ってあげるから、ね?」 「ぐぬぬ、菓子…いやでも、つぐみの抱っこは…うう、選べん」 「よーたろーの中のたいちょーってどういうポディションなの?」 「さぁ?」 よーたろーはたいちょーを嫁だと言っていたが、本気でそう思っているなら倒さなきゃいけない敵は沢山いるぞ。 その筆頭は、現在たいちょーの腕の中で嬉しそうに笑ってたいちょーに抱きついている。 年齢的に下心がないはずなのに、下心があるようにしか見えない。 「ていうか迅さん完全にたいちょーに抱っこしてもらうためにこの件黙っていたとしか思えないんだけど。こんな未来都合よくよみのがす?」 「んー…、迅のサイドエフェクトがどの程度のものかよく分からないからね……ヒワさんそれに登るのは止めてください、危ないです」 お兄が棚に登ろうとするヒワさんを止めにはいる。 俺はさっと手を出して、部屋から脱出しようとする太刀川さんの服をつかむ。 盛大に転んだが、泣いてないしむしろげらげら笑っていた。 「太刀川さんにはもう紐つけときたいわ……」 理解不可能な動きに俺がじと目をしてもなんのその。 直ぐに立ち上がり、出口に興味がなくなったのか、小南に絡みに行っていた。 俺は辻ちゃんを放してうずくまる。 「ううっ、俺もう子供の面倒見るの嫌になってきた……面倒見るの得意じゃないし、むしろ俺が面倒見てほしいし」 いつもこんなに小さい子に囲まれることがないので世話をすることに疲れてきた。 はやく帰りたい。 俺がぐったりして唸ると、何かが頭を触ってくる。 ちらりと見れば3つの影。 「奈良坂、三輪、辻ちゃん……慰めてくれるの?」 小さな手で一生懸命撫でてくれているらしい3人にめっちゃキュンとした。 大きくなっても3人まとめて面倒見てやるぜ…! ぎゅっと3人を抱きしめる。 「もう俺この3人だけ面倒見てたい」 「いやいや、現実逃避してないで手伝ってよ」 「風間さん眠かったら寝ていいんですよ」 たいちょーは迅さんを抱いたまま、小南にちょっかいを出す太刀川さんを止めに入る。 風間さんはこくりこくりと首が左右に揺れていて、お兄が寝かせてブランケットをかけていた。 これあと何時間続くの。 だんだん地獄に思えてちょっとげっそりした。 |