13











スーツ姿の三人組。うち二人は不自然に目をそらしている。

「…………」
「…………」
「なにこの険悪ムード」
「別に険悪なわけじゃないよ」

犬飼の呟きにつぐみが失笑する。
その重い空気を打ち破ったのはくぐいだった。

「アハハハハハ!!!!たいちょーめっちゃ似合う!!!!まるで仕事してるみたい!!!」
「毎日イヤってほどしてるけどね」

大笑いして転げまわるくぐいに、ほっと空気が和む。
そう、つぐみは、二宮隊の隊服を着ていた。
普段のだらけた雰囲気とは違い、かちっとしたスーツ姿に、いつもと違うハーフアップの髪型。眼鏡はしておらず、素顔をさらしている。
つぐみのトリガーをいじった冬島はかなり拘ったようだ。
くぐいは笑い転げたが、荒船は感心し、当真はすっとスマホを構えた。

「技術部の衣装チェンジは完全にこの為に用意されたと言っても過言じゃない感じだな」
「冬島さんの本気度すごすぎ」
「隊長ナイスすぎる、写真とっていいっすか?」
「絶対ヤだ」
「一枚だけでも…!」
「当真の隊、今回なんのおこぼれもないんだから撮らせてあげたらー?」
「はぁ………勝手にしてくれ」
「よっしゃ」

勝手にしてくれとため息をついて顔をそむけるつぐみを、当真は真剣に写真におさめていく。
冬島が本気を出したと聞いてやってきた東や諏訪も便乗して写真をとっている。

「はー…まぁ、馬子にも衣装?」
「ふっくくっ……いや、似合ってるよ」

素直じゃない諏訪に東が噴き出しつつ、素直につぐみを褒める。
当の本人は複雑なのか曖昧に笑って見せたが、その表情すら眼鏡がないとかなりの影響力があり。
他にも様子を見に来ていたオペレーター達がきゃあきゃあと騒いでいる。
荒船との引継ぎを終えた二宮が踵を返す。

「引継ぎは終わった、行くぞ」
「たいちょー、行ってらっしゃーい」
「ヒワちゃん達よろしくね」
「くぐい、了解!」

つぐみは二宮について防衛任務に向かう。
それをくぐいは手を振って見送った。

「俺にも俺にも!」
「はいはい、わんちゃん行ってらっしゃい」
「あ、すごくいい」

せがむ犬飼を適当にあしらって、くぐい達は二宮隊を見送る。
まさかつぐみがあの隊に入るとはなぁと全員が意外に思っていた。




***




現場についてすぐに夜鷹を飛ばす。
甲高く鳴いて空へと消えた夜鷹に、まだしばらくゲートは大丈夫そうだなと、俺は瓦礫に腰掛ける。

「俺じゃなくてくぐいをこの隊に入れた方がいいんじゃなかったの?」

声をかけた先は二宮くんだったが、返事はなく。
普通にスルーされた。
聞こえないような距離ではないはずなので、故意でしかない。

「あ、無視ね……」
「ハハ…。二宮さんなんでつぐみさんを入れたんですか?」
「嗚呼、多分夜鷹が見たいんじゃないかな。鴇崎くん経由でよく質問されるし」

俺のことは嫌いだが、トラップは興味があるらしい。
二宮くんはファーストコンタクトから俺のことを気持ち悪いと言ってのけたけど、そのあと鴇崎くんの一件があって、さらに嫌われた。
横から浚ったのは申し訳ないとは思ってる。謝る気はないけど。
でも、せめて俺を隊に入れたいって言ったなら話そうよってちょっと思ってしまう。おじさん悲しいぞ。
犬飼くんは比較的友好的で、というか彼が友好的じゃない人間はまずいないわけだが、普通に会話してくれるから居心地は悪くない。

「そういえば何で夜鷹飛ばしたんですか?うちスナイパーいないですよ?」
「嗚呼、夜鷹は視覚支援だけじゃなくて、トリオン感知にも優れているんだ。だからゲートが開く前に反応できるよ」
「へぇ…!」

正直、あんまり戦う気もないし、この二人がいたら自分はいなくてもいいかなぁと思っている。
手を出すと普段の連携が崩れるだろうしね。
そういうわけで俺は支援専門で行こうと思う。
二宮くんの性格を思えば俺が視界をちらちらすることもイライラしてそうだし。自分で言っておいてなんだけどかなり嫌われてるな。

「夜鷹って、昔いたオペレーターの名前なんですよね?」
「うん」
「どんな人なんですか?カッコいいって話だけど」
「うーんどんなんだったかなー」
「東さんとつぐみさんをとりあってバチバチ言わせてたって聞きましたけど」
「ふふっなにそれ」

犬飼くんの言葉に俺は噴き出す。どこ情報だろうか。
数少ない25歳だったからよく3人一緒にいたけれど。
いやだなぁ、懐かしくなると、つらくなる。
犬飼くんがすっと目を細めた。

「そんでどこいっちゃったんですか?」

その言葉に、俺は犬飼くんを見る。
やっぱりなぁと思った。
犬飼くんをくぐいに紹介された時に感じた印象は間違いじゃなかった。

「もしかして鳩原みたいに、近界に行ったんじゃないですか?」

人を探る言葉に、この子がかなり用心深いことを知る。
コミュニケーション力が高い程、他人を信じにくい傾向にある。
犬飼くんは典型的にそのタイプ。
人懐っこく見えて、警戒心が高い。
俺を探る言葉を俺が曖昧に笑って流そうとすると、思いがけない方向から叱咤が飛んだ。

「犬飼」
「はーい」

二宮くんに名前を呼ばれただけで犬飼くんは直ぐに諦めた。
どうやら鳩原ちゃんはこの隊にとってのタブーらしい。
結果として助けられたので俺はありがたくその話題を流した。

犬飼くんは手持ち無沙汰になったのか、今度は別の方向に興味を示す。

「二宮さんとつぐみさんって皆の前では険悪だけど二人になるとラブラブだったっていう展開はないんですか?もしくは一周回って好きになってしまう展開期待」
「……犬飼くんって少女漫画好きなの?」
「姉が二人なんで結構読みますね」
「それだ」

なにがどうなってそういう発想になったのか。
俺と二宮くんが、なんだって?
二宮くんは大層顔を歪めていた。
俺も嫌だけど、あからさまに嫌な顔をされるとちょっと傷つくからやめてほしい。

「確かにくぐいが欲しいですけど、二宮さんがいうなら俺つぐみさんがこの隊に来るの全然オッケーですよ」
「犬飼、黙れ」
「うん、俺がオッケーじゃないからね」

何この子、暴走した女の子みたいなこと言い始めたんだけど。
さっきの一瞬で俺のことを受け入れたらしく、ぐいぐい来るので困惑する。
そもそも二宮くんと俺が不仲だってわかっててそんなことまで考えているなんて、その想像は心の中にしまっておいてほしかった。

「俺、結構有りかなって思ってて」
「こっちが有りじゃねーよ」
「俺自身は甘やかしたい感じなんですけど、人のを見るなら喧嘩ップルみたいなのも有りじゃないですか?」
「犬飼くん人の話きいてる?」

ていうか、漫画の読み過ぎだからね?
なんで嫌ってる相手が俺の事好きになるのさ。漫画じゃないんだからそんな運命的じゃないんだよ。
しかし残念ながら俺と二宮の言葉は犬飼くんに通じない。
あれ、さっき二宮くんに名前呼ばれただけで全部わかってたくせに、今度はわかってくれないの。

「さっきやっぱりなって確信したんですけど、二宮隊の隊服着るつぐみさん超絶えろいっていうか?そのネクタイ、乱したくなる感じしますよね。メガネって本当に防御になってたんですねー。俺くぐい一筋のつもりでしたけど、つぐみさんも有りかなって」
「二宮くん、キミのチームメイト、頭大丈夫?」
「……手遅れだ」
「え、なんなの。やっぱり仲良さ気じゃないですか!」

共通の敵を目の前にした共闘だということに気が付いてほしい。
俺と二宮くんが頭を押さえたところで、夜鷹が甲高く鳴いた。
それに顔をあげる。

「二宮くん、犬飼くん、来るよ」

タイミングがいいのか悪いのか、ゲートが開く合図だ。
俺が声をかければ、二人も空を見上げた。







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