10









加古達はかつてない強敵に出くわしていた。
正直、探すのはそう難しくなかった。
大人しくベンチに座っていて動く形跡も無い。
けれど近付けなかった。

「手強いわ…」

加古がそう呟くと、周りの女性陣が力強く頷いた。
皆、鴇崎を狙ってこの場にいるのだが、先ほどから人は増えるが手を出すものは一向に現れない。
加古はふうと息を吐いて髪を肩からはらった。
隣に立つ二宮は先程から眉間に皺が寄っている。

「二宮、顔怖いわよ」
「煩い」

他の子供探へは参戦せず二宮と競うように此処へと来た。
幼児化した鴇崎はそれはもう天使で、モデルなんて目じゃなく、いっそ西洋の絵画のようだ。この年にしてもう完成した美しさを持っている。
加古は別に鴇崎に恋愛感情を抱いている訳ではない。
綺麗だから傍においておきたいのだ。
その色の無い表情が変わる瞬間が見てみたいだけだ。

「長期戦かしら……」

折角つぐみに見つかる前に見つけ出せたのに、お持ち帰りできる兆しが見えない。
子供なのだから力づくで連れていく事はもちろんできるだろう。
けれど、綺麗だからこそ、触れたら崩れそうなのだ。
彼の意思で、ついてきてもらわないといけない気がして、この場には主に女性が凄い勢いで増えているが、皆がただ見守るような状況になっている。まるで宗教だ。
長期戦を覚悟した所で、人垣が割れた。
モーゼの十戒のような光景に加古はそちらへ目を向ける。

「あら」

もうタイムアップらしい。
人の奥に見える、作業着に白衣を着た青年は、近づくでもなくその場で声をかけた。

「鴇崎くん」

何も見ていないような陰っていた目に、ふと光がさして。
鴇崎はゆっくりとつぐみを視界に入れた。
まるで息を吹き込まれた人形のような動きに周りが見惚れる。

「お待たせ」

つぐみはふわっと笑って手をさしだす。

「一緒に行こう」

鴇崎は迷いなく、まるで周囲に何もないかのように、一直線につぐみへと向かって行ってしまう。
そのままつぐみは鴇崎を連れ去ってしまった。
周囲から落胆とも感嘆ともとれる声がもれる。
加古はふふっと笑う。
最初から自分に鴇崎を捕まえる事は無理だと分かったので、加古自身はちょっとは残念だが納得はいっている。しかし隣の人間はさぞショックだっただろう。

「またつぐみさんに取られちゃったわね」
「……チッ」

悔しそうな舌打ちに加古は笑みを深める。
また振られてしまった二宮からしたらつぐみの存在は本当に邪魔なのだろう。
二宮の眉間の皺がより深くなったことが非常に愉快で、この鴇崎を巡る関係にはまだまだ目が離せないと上機嫌になる加古だった。





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