たいちょーから送られてきたメールを見て、俺は肩を落とす。

「ああああ、三輪とられちゃったー、残念……」
「いやだからポケモンじゃないからな?」

うっかり見つけちゃったよごめんねと添えられた言葉に、泣いた顔文字を送り返しておいた。
気分転換に飴でも舐めるか…。
俺はポケットから常時携帯しているチュッパチャップスを取り出す。ご想像の通りメロンソーダ味だ。
べろっと包装紙を外した所でどーんと何かがぶつかってきた。
不意打ちの衝撃に俺は耐えきれず、倒れそうになる。

「うっ」
「あ、ぶな」
「くぐい大丈夫?」

当真とわんちゃんがそれぞれ両腕と掴んで支えてくれてなんとか転倒を免れた。
不覚をとったぜ…。
俺は二人に礼を言って、ぶつかってきたものを見下ろす。

「う、うん。ありがとう……北添?」
「ゾエだな」
「ゾエだね」
「ゾエしかありえねーよ」

足にしがみついている心持ちふっくらした子供はどうみても北添だった。
え、いや、探してたけどさ。

「なんで俺、突進されたの?」
「……それじゃね?」

俺が首を傾げると、当真が俺の手元を指さす。
それと言われて見た先には俺のチュッパチャップス。
なるほど。

「飴か」
「飴だな」

荒船も納得がいったのか俺の脚にしがみつく北添を引き離してくれた。
俺はしゃがんで北添と目を合わせる。
菩薩みたいな穏やかな雰囲気に、ああ北添だなぁって思った。

「欲しいの?」

飴を見せると北添の目がキラキラ光った。
こんなときまでしっかり北添で俺はほっこりして笑みを浮かべる。
普段だったら絶対にあげないけど、流石に子供にまで冷たくすような心の狭さじゃない。

「はい。喉詰まらせないようにしてね」

飴をさしだすと北添がばくっと食い付いた。
おお、北添の一本釣り。
嬉しそうに飴を舐める北添に満足して立ち上がる。
多分逃げないだろうけれど、うろちょろされると困る。
だけど、どう考えても抱き上げるのは自分の腕じゃ無理だ。

「俺、北添の抱っこは自信ない」
「だろうな」
「手引いていけば?」
「あ、なるほど」

手を差し出せば、北添は迷いなく俺の手を掴んだ。
知らない人に飴貰ってついてこうとしてるけどこの子大丈夫ですかね。
ちょっと不安になったが、付いてきてくれないと困るので今回は見逃そう。
でも元のサイズになったらよく言い聞かせておこう。
北添と手をつないでとりあえず探してい無さそうな所を探す。
さっきたいちょーからは下に行くっていうメールが来ていたから俺らは上を目指す事にした。
最上階までくると、階段に横並びで子供がぼんやり座っていた。

「………何してんのあの二人」
「なんで揃って座って無表情なんだ」

ここまで来て満足したんだろうか。
俺が近づく前に荒船が二人を呼ぶ。

「鋼、穂刈」

名前を呼ばれて二人がこちらを振り向いた。
俺が手を振れば、北添も真似して手を振る。

「行くぞ」
「ほらー置いてっちゃうぞー」
「安心しろ、置いてくなら犬飼、お前だから」
「うっそぉ!?」

荒船の言葉に反応したのか、二人がこちらに駆けてきた。
まさかこんなに小さいうちから荒船には逆らってはいけないと勘づいているのか…!?
二人はじっと北添を見る。
飴が羨ましいのかもしれない。
俺はポケットから二つ、コーラとラムネのチュッパチャップスを取り出して包装紙を剥いて二人に差し出した。
鋼は少し表情を和らげて嬉しそうに笑い、穂刈は想像通り全く変わらない表情のまま俺の差し出した飴を受け取ってぺこりと頭を下げた。

「穂刈、やっぱり小さくても穂刈だね」
「そうだな、小さくても穂刈感が薄れない」

ゆるぎなく穂刈だわ、安定の穂刈だこれ。
表情は変わらないが、心なしか嬉しそうな穂刈に全員で笑った。

「はー…笑った。いやしかし、俺この二人も抱っこできる気がしない」
「今まで佐鳥とか辻とか軽いのばっかりだからな」
「筋力つけろ」
「ご飯食べなよ」
「そんな中傷は俺の心には響かない」
「アドバイスだし、ちょっとは響けや」

歳のわりにやっぱり穂刈と鋼はがっしりしている。
駄目だこれ、俺の腕が終了する。
そう主張すると、何故か俺がもっと頑張れ的な事を言われた。
違うぞ俺が非力なんじゃなくてお前らがちょっとムキムキすぎるんだぞ、18歳の癖に成長しすぎだからな。
しかしあれだ、一気に3人も捕獲してしまった。おまけに全員18歳。
これはつまりこの流れで行くと。
端末を見て、俺は残りを確認する。

「あとは?」
「カゲと鴇崎さん、だな」

画面を覗き見た当真がそう言う。
顔を上げれば全員もう捕まえる相手を決めている顔をしていて、おかしくてつい笑ってしまった。






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