B級戦3 荒船が俺に切りかかってくるのをひらりとかわす。 アタッカーじゃなくなったからといって腕が落ちた形跡は無いが、状況を覆すには足らない。 「ヒワさん、あんたさっさと鋼のところ行ってくれよ…!」 「無駄口聞いてると切るぞー」 「っ」 左手を切り落とすと、荒船は息をのんだ。 村上の方へ行けと言われて行くわけがない。 俺の役目はスナイパーのあぶり出し、というか主に18歳を狙撃しやすい場所につれていくことだ。 荒船くんもそれを分かっているようだ。 「くぐいに俺を撃たせるつもりっすか」 「俺が荒船をとったらさぞかし怒るだろうよ」 「ふっ、違いないっすけど!」 俺がとどめをささない事はわかっていて、しかし背を向ければ容赦なく斬る事も分かっているのだろう。 この劣勢を変えるにはアシストが必要になる。 『左』 「ほいよ」 鴇崎の言葉に俺はその場から飛び退く。 ここまで予定通り。 俺は狙撃先を見る。思ったより近い場所にいたようだ。 肉眼でも存在を確認できた。 「穂刈の位置、確認」 俺がそう言うと、荒船が苦虫を噛み潰した表情をする。 「っ!あんた俺を囮に…!」 そう、最初から狙いは、荒船じゃない、穂刈だ。 俺達は一番最初に荒船隊を仕留める事を決めていたが、荒船をアタッカーとして引きずり出し、後を仕留める事に決めていた。 夜鷹は釣りだ。 スナイパーなら必ず警戒する事を逆手に取って、スナイパーの位置を見つける為では無く、スナイパーに撃たせるために夜鷹を飛ばした。 その真意を読めなかったせいで荒船隊は俺達に狩られるだろう。 しかし、意表をつかれたのは俺たちも同じだった。 「っ」 俺と荒船の動きが止まる。 予想しなかった方向からの穂刈への狙撃。 それが命中して穂刈がベイルアウトした。 今いるスナイパーは、穂刈を除いて、荒船とくぐいと春秋さんだけ。 くぐいではないとなると。 「あの方角は………春秋さん…?!」 俺は唖然とする。 村上を警戒してこちらへとは介入しない、撃たないと思っていた。 まさか穂刈をとられることになるとは思わず俺は流れが変わった事を感じた。 「くっそ、東さんに一本とられた…!」 荒船も春秋さんが出てくるとは思わなかったようで、悔しそうな顔をする。 何の苦労も無く一点を横取りされた。 先程くぐいと話していた隊長の歯切れが悪かったのはこういうことか。 俺の読みが甘かったと思いながらも、一旦はこの場で荒船を逃がす訳にはいかないと、荒船に向き直る。 そこで、鴇崎の珍しく動揺した声が通信機から聞えた。 『ヒワさん、狙撃!』 その声に空を見えば直ぐ傍に弾が迫っていた。 一瞬混乱した。 誰が?いや、春秋さんしかいない。 次の狙撃がはやい。おそらく位置を移動していないのだろう。 避けられない。 俺がベイルアウトを覚悟したところで、高速で飛んできた白い鳥が、俺と弾の間に割って入った。 「よ、だか」 夜鷹は弾に当たり、弾を相殺して、消えた。 俺は呆然とする。 夜鷹が撃たれて消えた。それはつまり、隊長が。 『くぐい、荒船くんを撃ちなさい』 通信機から隊長がそう告げるのが聞え、そして間をあけず、隊長はベイルアウトした。 |