B級戦2 膠着状態が続く。 全員が次の一手で展開が動くことは理解できていた。 半崎はスコープを覗きながら加賀美のアシストに耳を傾ける。 どうやら近くに夜鷹が飛んでいるらしい。 そちらをじっと窺っていると、建物の隙間からちらりと白い翼が見えた。 半崎は引き金にかける指に力を込める。 「見つけた」 外せば無駄撃ちになるだけではなく、半崎の位置が確定されていしまう為、撃ち損じは許されない。 しっかりと狙いを定める。 引き金にかける指先に集中して、次に顔を出すのを待つ。 長いような短いような、待つ間は時間の流れが不規則で不思議な感覚だった。 建物の影から、それが姿を見せた。 半崎は迷いなく引き金を引いた。 スコープ越しに弾の軌道を見届ける。 狙いは外していない、撃ち落とせる、そう確信した。 しかし、半崎の弾は防がれる。 「っ」 イーグレットを下ろして、自分の目で確かめる。 夜鷹は落ちていない。傷一つつかず、そのまま空高く舞い上がっていこうとしていた。 半崎の弾は、確かに夜鷹に到達していた。 けれど、それをシールドが防いでいた。 「夜鷹にガード機能は無いはずじゃ…!」 『半崎くん!』 夜鷹は飛ばすのみで、シールドの機能はついていない。一体何に弾かれたのか一瞬考えてしまい位置を移動するための走り出しが遅れた。 加賀美の焦った声が通信機越しに聞こえる。 半崎の隠れていた建物の外壁が壊れ、そのまま外壁を壊した光に半崎自身も貫かれる。 *** 加賀美から半崎のベイルアウトが告げられるのを聞き流しながら、荒船は素早くイーグレットを構えた。 ちょうどくぐいが半崎を狙って撃ったのが見えた。 あそこかと荒船は引き金をひいて、肉眼で見るためにイーグレットを下ろす。 一瞬後、荒船の撃った弾は建物こそ破壊したが、くぐいがベイルアウトした気配はない。 「外した…、ワープしたのか」 撃って直ぐに移動したようだ。 トラッパーのワープがある限り荒船達にとってくぐいをとらえるのはシビアな展開になる。ワープ速度を上回るか、トラップの発動前にしとめるか。 荒船はその場から移動しながら空を見上げた。 きらりと光る、アイビスの弾。 方角的に東が夜鷹を狙って撃ったようだ。 しかしこれもひらりとかわされている。 元々アイビスは弾速が遅いため夜鷹にはかわすことは難しくなく、また東も恐らく夜鷹を遠ざけるための牽制で仕留めるつもりはあまりないのだろう。 夜鷹はぐんぐん空を昇り姿をくらました。 荒船は建物に隠れながら次の狙撃ポイントまで移動する。 「くっそ、チビだから見つけ辛いっての………っ!?ぶね!!!」 「やぁ荒船」 民間の屋根から弧月が降ってきて、荒船は慌てて飛び退いた。 受け身をとりながら、荒船は視線は外さず見据える。 向こうは随分と楽しそうな口調だ。 そりゃそうか。前線は待たされるのが嫌いなんだ。 「俺と遊んでくれ」 漸く思いっきり刀が振れると、荒船を襲ったヒワはそういった顔をしていた。 「チッ…ヒワさんかよ……!」 走って逃げ切るのはまず無理だ。 くそ、またいっぱい食わされた。 荒船は舌打ちをして逃げることを諦める。 ヒワに背など向けたら即ベイルアウトだ。 予定よりはやいが仕方ないと、荒船は弧月を抜いた *** 隊章が床に浮いたと同時にワープする。 飛ばされたのは悪くない狙撃ポイントで、俺は直ぐにアイビスを構えた。 「サンキュー、たいちょー」 『半崎くん狙撃が正確でおじさんドキドキしたよ…』 「もしかして、恋」 『検索しなくていいから!』 「スリル、ショク、サスペンス」 『それコナンだよね!?ていうかなんでそんな昔のネタ知ってんの…』 呆れるたいちょーをよそに俺は上機嫌でスコープを覗く。 かなり順調だ。荒船は俺に弾が当たらずさぞかしムカついてるだろう。いい気味だ。 スコープ越しにヒワさんが荒船に飛びかかるのが見えた。 「半崎ゲット。かつ荒船も弧月ぬいて、かなりいい流れじゃないですか」 『そうであればいいけど』 「含みあるなぁ」 たいちょーは何か気がかりなことがあるのかすっきりしない物言いだった。 少し引っかかりを覚えるが、たいちょーの考えてることなんて分かるわけがないので、年寄りの戯言だと思うことにした。 『くぐい』 「oui。兄、なに?」 『周囲に反応なし。居場所が分かってないのが穂刈くんと…東さんも移動したかな』 「穂刈はともかく、東さんはもうないんじゃない?注意がそれると村上にとられるし」 『つぐみさんはどうでしょう?』 『んー……』 「たいちょー歯切れ悪いからほっときなよ」 『こら、くぐい』 『ちょ、ひどい』 『おーい、ちゃんとアシストしてくれ』 『あ、ヒワさん、すみません』 俺はスコープの倍率を調節する。荒船をじっと見ていても仕方ない。 荒船が抜刀したことで必ず穂刈は荒船のカバーにはいるはず。狙うのはそこだ。 息を潜めてその時を待つ。 |