B級戦1














太一をベイルアウトさせて俺はその場から壁伝いに走って離れる。
通信機から兄弟の温度差のある声が聞えてきた。

『ヒワさん容赦ない、めっちゃこわい』
『ヒワさん格好いいです』

全く似ていない二人に緊張感がなくて笑ってしまう。

「ありがとう?」

今回オペレーターを務める鴇崎のナビにしたがって俺は一旦人気のない路地にある家に身を潜めた。
此処ならスナイパーにも見つからないだろう。

「つぐみさん大丈夫ですか?」

つぐみさんに呼び掛ける。
3分前に飛び込むように隊室に入ってきたつぐみさんはぜーはーと肩で息をしていて全身で疲れていた。
ギリギリ間に合っただけでも凄いと思う。絶対に間に合わないと思っていた。

『う、うん…換装体になっても精神的疲れが………』
『始まる前から疲れるの止めてくださいよ』
『全部鬼怒田さんが悪いんだって…げほっ』

くぐいの言葉につぐみさんがむせながら応える。
換装体になれば身体の疲れは感じないが、精神的な疲れが消えるわけじゃない。
ランク戦前でも仕事を詰め込む鬼怒田さんには流石としか言いようがない。つぐみさんに対して鬼だ。

『はー…ヒワちゃんがお仕事してくれたし』

つぐみさんが一息つき、切り替えて潜めた声を出す。
それに全員の身が引き締まった。
四つ巴のランク戦ははじまったばかりだ。

『俺も動きますか。お膳立てしてあげたんだからしっかり仕事してよ、弟くん』
『はーい』

今日の主役はくぐいだ。その為に、作戦を立ててきた。
序盤に太一を削るのが俺の今日のミッション。後はくぐいにまかせて静かに動く事にする。

『夜鷹、飛んで』
『視覚支援入ります』

つぐみさんの呼びかけに応えるように、甲高い鳥の声が辺り一帯に響き渡る。
空に白い塊が凄い勢いで登って行った。
俺の視界にもう一つ映像が表示される。



***




聞えてきた鳥の声に、全員が身を構える。
荒船は目で追ったが、軌跡しか見えず既に飛び立った後の様だ。
飛び出しはどちらにしても速すぎて撃ち落とせない。当真や東すら撃ち落とせない速度で飛び上がるらしい。なので最初から飛び出しは諦めているが、せめて向かう先の軌道は確認したかった。
迂闊にも太一のベイルアウトに気を取られいていた。
それにしても久しぶりにこの声を聞いた。
穂刈から通信が入る。

『聞こえたか、今の』
「嗚呼…やっぱり使ってきたな、夜鷹」
『スナイパーというか、バッグワーム使ってる人間が一番嫌がるやつですよね』

半崎も加わり全員で渋い声を出す。
あれの存在を歓迎する人間はいないだろう。

「偵察機、夜鷹」

つぐみの操る鳥型偵察機はスナイパーにとって鬼門だ。
夜鷹の映像はリアルタイムに結城隊に伝わる。
音も無く近づきこちらを視界に捉え、その映像を見た隊員が仕留めにくるのだ。
チートじゃねぇかよと思うが、トラップを考えているつぐみの頭の良さを思えば実現できていても可笑しくない。
正直全隊に普及しても良いと思うのだが、まだ色々障害があって実用には難しいと本人はぼやいている。

『見つかると厄介だな、くぐいが出てるんだろう?』
「あいつ18歳は根こそぎ殺すとか物騒なこと言ってたな」
『うわー、大人しくオペレーターやっててくれればいいのに』
「いや………オペレーター席座らせるとさらにまずい展開が待ってる可能性があるからな」

今回スナイパーとして参加しているくぐいだが、半崎の言う通り普段オペレーターも兼任している。
というか、常時あの隊は兄弟しかいない状態なので、兄弟が交互にオペレーターをしているのだ。
昔はヒワとつぐみの二人の隊だったので、つぐみがオペレーターをしていたとも聞いている。兄弟を勧誘してからは、オペレーターのやり方を兄弟に教えたらしいが。
つまりオペレーターとしての素質がある人間が三人もいるので情報処理能力が高いのだ。
マップを確認している加賀美も渋い声出す。

『ヒワさんもバッグワーム使ってるみたい』
『マジかよ………全員バッグワームじゃないっすか』

オペレーターの鴇崎を除けば、現場に出ているのは3人。
つぐみはトラッパーとして夜鷹を動かしている間は、戦力の勘定に入らないけれど。

『どうする、荒船』

穂刈の問いかけに荒船は頭を働かせる。
このままじっとしていても夜鷹に見つかるだけだ。
他の隊の動きを計算に入れると、荒船たちが出来る事は多くない。

「おそらく東さんも夜鷹を警戒してそう撃たないはずだ」




***




太一のベイルアウトに続き、夜鷹が飛んだ。
奥寺と合流した小荒井はスナイパーを警戒しつつ家の影に隠れてオペレーターからの状況確認に耳を傾ける。
マップに写る影は四つしかないという。
奥寺と小荒井、村上に来馬。

「ヒワさんはバッグワームを使ってるし、どっちにしろ俺たちじゃ2ポイントとられる」
「どうする?」
『荒船隊は均衡を崩さないためにこちらは撃たないだろう、夜鷹は飛んだが、くぐいのことだから18歳を先に全員狙いたがるだろうし』

東の助言を聞いて小荒井と相談する。
出鼻を完全に挫かれた。当初のもくろみであれば、ヒワには村上と戦ってもらうつもりであった。荒船隊もそれを期待していただろう。アタッカー4位の村上に対抗できるのはこの中ではヒワしかいない。今は個人戦はほぼしていないヒワだが腕が落ちていないことは皆承知している。

「じゃあ来馬先輩狙いに変更します、援護お願いできますか」
『了解』

隠れているスナイパーを追うのはリスキーだ。バッグワームを使うヒワと鉢会わせてしまえば勝てる見込みは薄い。
作戦が決まれば後は動くのみ。
奥寺と小荒井は走り出した。




***



村上は来馬と無事に合流し、ほっと一息つく。
想像よりはやく展開が進んでおり、かつ最初に取られたのは自分の隊だ。
ここから怒濤に踏み込まれる可能性がある。
特に、静かに狙っているであろうくぐいの存在が気がかりだ。人畜無害な顔をして情けなんて言葉はない男だ。

「鋼!」
「壁に隠れてください」
『ごめん、私のミス』
「いや、つぐみさんの作戦と、ヒワさんの動きのはやさが上だったんだ。切り替えていこう」

来馬と家の影に隠れ、状況の整理をする。
このままだと一番はじめに崩れるのは来馬隊だ。しかし、今からスナイパーやバッグワームを使う人間を探すのは難しい。

「ヒワさんはバッグワームを使ってるから探すのは難しい…となると奥寺くん達を迎え撃った方が良さそうだ」
「そうですね、荒船隊か東さんが夜鷹を落としてくれれば形勢がかわるかもしれません」

村上としてもくぐいは狙いに行きたいところだがまずは隊の勝利を優勢しなくてはいけない。
結城隊をスナイパーに任せるとして、村上達は目の前に迫る東達隊に身構えた。







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