おまけA









三雲が出水と廊下で立ち話をしていると、背中から声をかけられた。

「あ、出水くん」
「っ、鴇崎さん二宮さん…!」

振り返れば、顔の整った二人が並んでいて一瞬圧倒される。
鴇崎を間近でみたのは初めてで、三雲はたじろいだ。
出水は二人には慣れているようで、鴇崎に駆け寄っている。

「さっきはすみません!」
「ん?」
「ベイルアウト……」

そういえば、解説で出水が鴇崎とあたることに不憫だと言っていた。シューターとしても天才だと言われている出水が鴇崎との勝負を逃げたのを思い出し、出水がよほど鴇崎を慕っているのだろう。
しょんぼりした様子の出水に、普段の自信に満ちた雰囲気がなく、三雲は驚く。
そんな三雲をおいて、二宮は淡々と述べる。

「ランク戦なんだから当然だろう」
「二宮さんの言う通りだよ?勝つためにとらないと」
「分かってますけど……!」

鴇崎も全く気にしていない様子で首をかしげている。
しかし出水としてはよほど後を引くような事だったようで、陰りは消えない。
鴇崎が困った顔をすると、二宮が出水を呼ぶ。
少し離れた場所で話し始めたので、必然的に鴇崎と三雲は置き去りになる。
気まずいのと、先ほどの試合を見て頼みたいことがあり、意を決して声をかける。

「あの」
「?」
「玉狛の三雲です」
「嗚呼…結城隊の鴇崎です。空閑くんには弟がお世話になっています」

どうやらこちらのことを知っているようでほっとした。
正直、結城隊でこの人が一番面識がないし、とっつきにくい。
表情もあまり変わらないし、話しかけ辛い雰囲気を持っている。
緊張して変な汗が出てきた気がして三雲は額をぬぐった。

「今日の試合、すごかったです」
「ありがとう」
「それで…僕もいまB級でシューターをしているんですが、隊を、鴇崎さん達みたいにある目的のためにA級にしたいんです」
「………」
「そのために自分が強くなる必要があって……僕に技術を教えてもらえないでしょうか?」

鴇崎がシューターとして戦うところは初めて見た。
正直ノーマークであんなに強いと思わなかったのだが、その正確性や計画性は目を見張るものがある。
彼の技術を少しでも吸収できたのならもっと自分は強くなれるのではないだろうか。
無謀かもしれないと思いながらも三雲はお願いを口にした。
けれど、鴇崎はきょとんとしたまま何も口にしない。

「………」
「あの…?」
「三雲」

黙ってしまう鴇崎に、三雲が困惑して声をかけると、違うところから声がかかった。
振り返れば話が終わったのか、出水と二宮がこちらへと合流する。
二宮は鴇崎の肩を抱いて引き寄せる。

「三雲、こいつは俺の弟子だからよく知っているが……人を強くすることには向かない。別の人間をあたれ」
「え…」
「二宮さんの言う通りだメガネ君。鴇崎さんは、頭は良いし、だから教えんのは上手い。けど…」
「こいつは元々勝ち負けに興味がないんだ。だから勝ち残る事は考えていない。お前が勝つための指導はしないだろう」

わりと酷い内容な気がするが、鴇崎は反論はないようで肩を竦めるだけだった。
勝ち残る事は考えていない、というのはどういうことだろうか。
三雲が困惑すると、二宮が鴇崎を見下ろす。

「さっき出水には言ったが……お前、最後手を抜いたな」
「あの試合で……!?」
「お前の整形、撃ちだし、弾道速度なら出水のギムレットをギムレットで相殺できたはずだ」
「…………」
「全く馬鹿だ、それを分かってて許す隊長はもっと大馬鹿だがな」

二宮の言葉に驚かされる。
ギムレットをギムレットで相殺するなんて考えたこともなかった。
合成弾の生成には時間がかかるため、三雲には到底無理な話だが、鴇崎はできるという。
もしそれが本当に行われていたのであれば、結城隊はより有利な道を歩めただろう。
けれど、それをせずに鴇崎はベイルアウトの道をとった。
三雲には、鴇崎の考えが皆目理解できなかった。

「……二宮さん、つぐみさんを悪く言うのはやめてください。つぐみさんは最初から分かっていて俺を隊に入れてくれたんです」

漸く口を開いた鴇崎から出たのは、隊長を庇う言葉だった。
つぐみは分かっている。
その言葉に、この人もきちんと隊員なのだとなんだか腑に落ちた。

「ごめんなさい、三雲くん。俺はキミの力になれない」
「あ、いえ、こちらこそ突然すみません……」

鴇崎が申し訳なさそうな顔をするので三雲も申し訳なくなり頭を下げる。
指導は出来なくても相談には乗るからとにこりと笑った。
初めて笑う鴇崎を見て、三雲はかっと顔が赤くなる。周りの人が騒ぐ意味がよく分かった。
何も気が付かない鴇崎は、出水に声をかける。

「出水くん、今日は隊でご飯かな?」
「あ、はい…………鴇崎さんのところは」
「うちは隊長が忙しいから無いよ。だから二宮さんとご飯に行こうって話をしていて、良ければ出水くんもと思ったんだけど…」
「え」
「残念だったな出水。俺と鴇崎で行く」
「俺も行きます!」
「いやでも、隊での」
「そんなのいつでもできるんで!ちょっと待ってください……太刀川さん俺今日飯行けないんで後日で…いや奢って欲しいんですけど!こっちはこっちで行かないと出遅れるんで…!」

鴇崎の肩をぐっと抱き込む二宮に、出水が焦る。
慌ててスマホを取り出して太刀川に連絡を入れるのを見て、この三人が揃ったところに居合わせるともしかしてとんでもなく面倒なことに巻き込まれるのではないかと、三雲はようやく悟った。
慌てている出水をぼんやり見ていた鴇崎が、三雲へと視線をうつし首をかしげる。

「三雲くんも行く?」
「僕は、この後玉狛に戻るので…」
「そっか」

じゃあまた今度一緒にご飯食べようね。そう言う鴇崎に、ありがとうございますと三雲は頭を下げた。
もし機会があるのであれば、二宮も出水もいないタイミングでお願いしたい。







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