おまけ@









喫煙室の扉をスパーンとあける。

「たいちょー!っていない」
「くぐい?」
「なんだ諏訪…さんか」
「おい待てこら、いま俺のこと呼び捨てにしようとしただろ」

突然開いた扉に煙草に火をつけようとしていた諏訪さんが驚いた顔をしてから、俺の取ってつけたような間に顔をしかめる。
完全にガンつけてきていて不良だ。あらやだ、怖い。

「イエマサカ ソンナ」
「つくならマシな嘘つけ………避けんじゃねーよ!」

諏訪さんが立ち上がって俺の頭を殴ろうとしていたのでさっと後ろに下がって避ける。
するとさらに癇に障ったのか諏訪さんが吠える。
俺はそれを煽るようにピースした。

「諏訪さんの拳くらい避けられるに決まってんじゃん」
「相変わらず腹立つガキだな!」
「そのガキより順位低いの誰だっけー?」
「くっそチビ………!」
「諏訪さんも言うほど背高くないくせになに言ってんの?」
「170にも達してない癖にざけんな!」

再度拳を振り上げてくるのを左に避けると、諏訪さんでも探していたのか風間さんがやってきた。
ちょうどいいところに。
俺はすっとその小さな背中に隠れる。
俺が風間さんの背中にすっぽり入れたのは俺が小さいとかではなくファンタジーだからだ。俺は小さくなどない。

「きゃー、風間さん助けてー、諏訪さんがいじめる」
「それは許せんな」
「風間を仲間に引き込んでんじゃねーぞクソチビ」
「うっせ、くそ弱い癖に黙れ」
「…!表でろや、蜂の巣にしてやる」
「諏訪さんが?それは無理でしょ」
「諏訪がか?それは無理だろ、くぐいの方が実力がある」
「おめーらホント二人揃うと失礼だな!!!」

俺と風間さんの軽快なやり取りに諏訪さんが頭を抱える。
大体いつもこんな感じで俺と風間さんは諏訪さんで遊んでいる。
諏訪さんが弱いのはともかく風間さんが認めてくれた!
俺は風間さんの背中で胸の前で手を合わせて喜ぶ。

「やだ…!風間さんが俺のこと褒めてくれた…」
「俺はいつでもお前を評価している」
「イケメソ…!諏訪さんなんて比べものにならないくらいにイケメソ…!」
「諏訪なんか比較対照に入らないからな」
「俺をいちいち貶すな!失礼な奴らだな!!!!」

もちろん演技だが、風間さんものりのりで俺の手を取ってくれた。
重なりあう手と、見つめあう俺たちに、諏訪さんが気持ち悪いとわめく。
失礼だなおい。
ぎゃーぎゃーとうるさい諏訪さんに通りすがる人たちがまたかという顔をして通り過ぎていく。
もはやこれは本部内でよくある光景で誰も気にしないのだ。最初は風間さんのこの悪乗りに普段とギャップがありすぎてぎょっとする人もいたが。慣れって怖いよね。
俺がこの後どうしようかと思っていると、後ろから猫みたいに首根っこつかまれて持ち上げられた。
風間さんを見れば、風間さんも同じように黒猫みたいに持ち上げられている。

「諏訪弄りはそのあたりにしておけ」
「木崎」
「木崎さん」

上を見れば、木崎さんがいた。
まぁ諏訪さんがいて風間さんがいるんだから木崎さんがいてもおかしくはない。
俺と風間さんは木崎さんに両手で持ち上げられていてぷらーんとしている。
これも珍しい光景ではない。
大体俺と風間さんの奇行を止めるのは木崎さんぐらいだ。後はみんなにやにや見ている。
猫みたいにぷらーんと持ち上げられているので、とりあえず猫みたいに顔を洗ってみた。
丸めた手で顔や髪を撫でてにゃーにゃー鳴く。
風間さんは完全に無気力な猫状態で黙ってぷらーんとつられていた。
そんな俺らに木崎さんが肩を落とす。

「はぁ………なんでお前らは揃うと諏訪を弄るんだ?」
「そこに諏訪さんがいるから?」
「意見があうな、くぐい」

深い理由なんていらない。諏訪さんの反応が楽しいからついやってしまうわけで。あ、これはもしかして諏訪さんが悪いんであって俺らが悪いわけではない気がする。
それにしても風間さんと意見があうなんて。
俺は真顔でエピローグをつげる。

「トクン…こうして俺と風間さんは諏訪さんを苛めながらお互いの愛を確かめあうのだった」
「ざけんな!」
「めでたいな」
「めでたくねーよ!」

諏訪さんの空しい叫びが廊下に木霊した。
さっきと打って変わって真顔でめでたいと祝いあう俺たちに、諏訪さんが「お前らなんなんだよ意味わかんねーよ!」と頭を抱えている。
理解するんじゃない感じるんだ。とか俺が言おうとしたが、木崎さんが無言の圧力をかけてくるので俺は黙った。

「諏訪は落ち着け、二人はおちょくるな」
「ふぁーい」
「仕方ない」

俺の気のない返事と風間さんの反省していない返事が重なる。
全く懲りた様子のない俺と風間さんに、木崎さんはまた大きくため息をついて、諏訪さんはふざけるなと喚いた。

あ、たいちょー探してたんだった。







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