A級最終戦9










出水は顔を顰める。
足に付けられたレッドバレットが重く、動きがままならない。
動かずともアステロイドは撃てるが、近距離の攻撃を受けた際に避けられない。

「くっそ」
「はっはっはっ、出水、修業が足らないぞ。とりあえずメンタルから鍛えなおせ」
「だからそこは触れないでください!デリケートなんで!」

ヒワが弧月を振るう。
それを出水は避けられず、そのまま容赦なく斬られた。
今日のコンディションはもうぼろぼろだったので、退場出来て少しほっとした出水だった。




***




出水がベイルアウトする。

「1点、とった」

これで3点。
結城隊のランク3位が決定した。
ほっとしたど同時に慌てて振り返る。

「つぐみさん!」

つぐみさんは丁度、何もない所から心臓を刺されていた。
風間さんだ。

「…間に合わなかった、か」

つぐみさんがベイルアウトしたのを見て、俺は唇を噛む。
3点取れたけど、間に合わなかった。
今季のランク戦、ほぼつぐみさんはベイルアウトしている。だから今回はちゃんと守りたかったのに。

『今残りが、太刀川さんと歌川と…あ、歌川が太刀川さんにとられた』

慶が何もない空間を斬っている。口角を上げて戦うその様が人外染みていた。

『太刀川さんと風間さんとヒワさんだけです』

やっかいなメンバーと言うか、まぁこのメンバーが残るだろうなという予想通りだ。
もう駆け引きは無いので、思う存分動ける。長く戦えそうで、手ごたえもあるし、面白そうだけれど。

『たいちょーから伝言、目的は果たせましたありがとう。後は好きにしていいよ、だそうです』

くぐいがちょっと拗ねた様子でそう告げた。
くぐいの言いたい事は分かる。
つぐみさんは多分俺が出水を仕留めると分かったから、最後手を抜いたに違いない。
俺は溜息を吐く。
あの二人に混ざっても楽しそうではある。現に慶が時折こちらを見ており、乱戦を望んでいるのは丸分かりだ。
でも、何だかなー。

『…え、まじで?良いな、俺も混ざりたい』
「ん?なに、どうした?」

突然くぐいの言葉が俺宛てでは無くなる為、向こう側で話しかけられているみたいだ。
俺が声をかければくぐいが既に気もそぞろに返事をしてくれた。

『お兄とたいちょーが、この最終戦の勝敗が決まるまでお茶のむって』
「なにそれ羨ましい。俺も混ざる」

なになに、なんでもう終わったムードなの。ていうか羨ましい。俺もみんなとまったりしたい。
どうせくぐいも気もそぞろになって碌なアシストにならないだろうし、俺もお茶会が気になってまともに戦えないだろう。
弧月を消す。

「くぐい、ベイルアウトするからどっか飛ばして」
『りょーかい』

蒼也や慶との戦闘はまた今度で。
とりあえず今は、お疲れさまでしたのお茶会に参加したい。
隊で3位達成を喜びたい。

そしてつぐみさんに思いっきり甘やかしてもらって、3位達成のご褒美に後日何かお菓子を作ってもらおうかな。
つぐみさんのお菓子は絶品だ。多忙で中々お菓子を作ってくれないし、普段は強請りづらいけれど、今日くらいリクエストしても許してくれるだろう。
俺は緩んだ笑顔を浮かべたまま、その場から姿を消した。
 






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