A級最終戦6














出水はその場に立ち止まり、同じように驚いた顔しているつぐみと目が合う。
つぐみは直ぐに風間の対応に切り替えたようだが、出水は現実が受け止められず、動きを止めた。

「え……あ…」

つぐみを狙ってギムレットを放った。
どんな盾であっても、ギムレットならば崩せると思った。
狙ったのは、あくまでつぐみで。

「げ、マジ…」

まさか、鴇崎を撃つことになるとは思わなかった。
確かにあの隊にはワープがあるけれど、隊長をそこまでして庇うとは。

「やばい…俺…」
『心折れてる場合じゃないけど』
「や、これまじでやばい……精神的ダメージが…」

鴇崎のいる隊とあたることが分かった時から覚悟はしていたが、現実は重い。
仮想戦闘といえど、手にかけたくなかった。
出水は後悔で頭を抱える。
こんなことなら、最初からずっと当真みたいに庇っていればよかった。

「…ベイルアウトしていいっすか」
『駄目に決まってんじゃん!』

国近の叱咤に、出水は「ですよね」と掠れた声で返した。




***



出水が俺の横を通過して唯我の方へ向かってから、慶が動き出した。
容赦なく斬りかかってくる。
弧月で受け止めるが、相変わらず一打が重く、俺は痛覚を完全には切ってないので、腕が痺れた。
弧月同士である以上刃を受けた際に弧月が負けることはないが、逆に力で押し負ける。
俺と慶の腕力は如実で、まともに斬りあうことなどまず無謀だ。
ハンドガンを至近距離で撃つ。
慶は弧月をもう一本出してそれを弾いた。

「ヒワさんとこうしてやるのいつぶりだろうな」
「さぁ?日数なんて数えて、ない!」

ここで俺が慶を取れれば、鴇崎がだいぶ楽になる。
しかし残念ながらそんな一朝一夕にとれるような相手ではない。
慶は二刀流なので当然接近戦は得意で。
おまけに旋空弧月もいれているだろうから、中距離での攻撃もできてしまう。
ある意味俺と戦闘スタイルが似ており、腕もたつので戦いづらい。

「楽しい」
「そりゃよかった」

慶が口元に笑みを浮かべる。
心の底から楽しんでいるようで俺もにこりと笑う。
戦いづらいさ、でも、俺も楽しい。強い奴と戦うのは悪くない。
ハンドガンを撃つ。アステロイドが炸裂し、土ぼこりがたつ。
簡単な目くらましだ。
俺は弧月で切りかかるが、慶もそんな簡単に下がるような男ではなく、俺の弧月を片手で受け止めて、もう一方の弧月で横から切りかかる。俺はそれをハンドガンで受け止めた。

「ほんとは!俺の隊に入ってほしかったのに!」
「え、そうなの?」

初耳だ。
慶が隊を作った時にはすでに俺はつぐみさんの隊に居た。
だから全然知らなかった。
忍田さんには慶の面倒を見てくれないか的なことは言われたが、俺にはつぐみさんがいたし、断った。
でもまさか慶がそう思っていたとは知らず。

「そりゃーごめんよ!」

俺は慶の腹に蹴りをいれる。
たいしてダメージは与えられていないが、慶は距離をとって下がった。

「でも、ほら、つぐみさんの隊に入れたらもう抜けたくないよね」
「それは否定しない。正直俺も入りたかった」

慶も、つぐみさんには一目おいているようで、その言葉に俺は苦笑いを浮かべた。
慶と俺とつぐみさんが同じ隊に居て、後は東さんでも誘えば、最強なのではないだろうか。
迅とかの玉狛勢や天羽とか、どんな敵が来ても勝てる気がする。
それはそれで楽しそうだな。
今は可愛い兄弟が居るから慶達をいれるつもりはないけど。
そんなことをぼんやり思っていると、可愛い兄弟の片割れ、くぐいから通信が入った。

『ヒワさん!お兄がベイルアウトした!』
「え?」

鴇崎がベイルアウトする要素が思い当たらくて俺はクエスチョンマークを飛ばす。
大体のあらましを聞いたところで、なんとなく理解した。
うちの隊は、隊員が自己犠牲型で困る。もっと生き残ることを前提に動いてほしい。気持ちはわかるけど。

『出水と歌川、風間さんがたいちょーとの混戦になります』
「…まずいな」

いくらつぐみさんでも、カメレオン×2+シューターは無理だろう。
どうあがいても絶望というキャッチフレーズを思い出した。くぐいから聞いたような気はするけど、なんのキャッチフレーズかは忘れた。

「ごめんね慶、勝負はお預けだ」
「え!?」

驚く慶に詫びて俺は直ぐに踵を返す。
背を向けて走れば後ろから斬られることは分かっている。

「くぐい!」
『了解、ワープ起動!』

一瞬で俺はその場から移動した。







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