A級最終戦1









転送されたのはどこかの建物の上だった。
直ぐにバックワームを起動し、身を隠す。
マップを出して弟くんの解析に耳を傾ける。

『風間隊、全員カメレオン起動確認。風間さんと歌川の位置が近い、菊地原は少し離れている』
「げ、面倒だな」
『ヒワさん、太刀川さん対岸、橋わたったところ直ぐ』
『了解』
『兄、唯我の位置、4ブロック先。多分風間隊も唯我を先に狙うはずだから、気を付けて』
『了解』

次々にマップにポインターをいれていく弟くん。
相変わらず解析がはやい。
さすがゲーマー。

「出水くんは?」
『対岸、太刀川さんと近いのが出水だと思う』
「オッケー、ヒワちゃん、太刀川くんの気をちゃんと引いてね」
『りょーかいです。もう着きます』

太刀川くんに乱入されたら流石にたまったもんじゃない。
A級1位2位を相手にするだけでも骨が折れるのに、アタッカー1位と2位を相手にしないといけないなんて。
野放しにもできないので、じっとしていてもらう必要がある。
とりあえず太刀川くんにはヒワちゃんと遊んでおいてもらう。

「鴇崎くん、まずは深追いしなくていいから」
『はい』
「酷なことお願いしてるけど、頑張れる?」
『大丈夫です』

今季のランク戦初試合なのに鴇崎くんは相変わらず落ち着いている。さすができる子。
俺は立ち上がって建物を出る。

「よし、じゃあ3点、絶対に取ろう」
『はい』

鴇崎くんには今回がっつり働いてもらう。




***




カメレオンを起動して風間は歌川と合流してすぐに動き出す。
警戒すべきは、太刀川とヒワ、つぐみだ。

「唯我を狙うぞ」
『はい』

その三人に位置を知られて追ってこられると困る。
出し惜しみせずにカメレオンを使って初動を制すことに徹底する。

『菊地原くんももう直ぐ合流します』
「分かった。他の様子は」
『こちらの岸に唯我くん、対岸に太刀川さん、出水くん』

対岸に太刀川と出水というのは運がいい。
風間は壁を蹴って唯我を追跡する。結城隊も唯我をまず狙うはずだ。
浮いた球をみすみす逃すわけにはいかない。

『ヒワさんが太刀川さんを狙っているようで、こちらから対岸へ移動中。つぐみさんはバックワーム起動中のようです』
『…トラッパーでもするつもりですかね?』
『スナイパーがいなくてもあのトラップは手ごわいからな…』
「いやそれはない。くぐいがオペレーター席にいる、トラップはくぐいが担当するはずだ」

近年はトラッパーとしてしか動いていないため、完全にトラッパーだと思っている人間が多い。しかしつぐみのかつてを知る風間は、今回トラッパーをするなんて、そんなはずがないと断言できた。
A級のこの大事な1戦をトラッパーでつぶすような男ではない。
菊地原はくぐいがオペレーター席でトラッパーもしていることの方が気にくわない様子だが。

『ほんとそれチート。なんでオペレーターとトラッパー両方するわけ?』
『アハハ…』
「あいつは情報諸能力が高い、同時に7つの画面を見てすべて別の動作を仕掛けることができるほどだ」
『そうなんですか?初耳です』
「普段はやる気がないからな。ただ、全員がいて、A級最終戦だ、出し惜しみせずにくるだろう」

風間は一度だけくぐいの本気を見たことがある。
といってもつぐみが作ったシミュレーションゲームをいじっているところに出くわしただけだが、7画面に別々の近界民がいるところで別々の対処を行い見事に勝っているところを見て絶句した。
これがこの小さい男の本気なのだと、その時初めて知り、恐ろしく感じた。

『しかし、となるとつぐみさんはアタッカーとしてくるわけですね』
「嗚呼…厄介だな、菊地原と歌川は単独でかかるな、つぐみさんは強い」
『…なんでそんなに強い強いっていうんですか?そんな強そうに見えないけど』

菊地原が不満そうな声を出す。
そうか、菊地原は知らないのか。
風間は昔を思い出してスコーピオンを握る手に力を込めた。

「お前は、知らないんだ」
『…?』

あの人は強い。

そこで視界が開ける。
川辺を走る黒コート。唯我だ。

『見えました!唯我です…っ、鴇崎さん!』

しかし時を同じくして家の角から鴇崎も姿を見せた。
風間隊はぎりぎり間に合わず、先手を奪えなかった。





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