導入









俺は足取り軽く自分の隊室に足を踏み入れた。
正直今日誰がきているのか分からないのだが、もう直ぐ任務の時間だし誰か居るだろうと踏んで声をかける。

「よーし、注目ー!」

俺のその声に、室内にいた面々は顔すらあげない。
まぁこの子たちは俺が注目って言ってもあんまり興味持ってくれないよね、分かってた。
そんなことより俺びっくりよ。

「うわ、どうしたの人口密度高いね」

なぜかうちの子たちがソファーに集まっていた。
こんな光景みたのいつぶりだろう。軽く感動する。

「これから任務なんだから他の隊だったら普通の光景でしょ」

弟くんは二人掛けのソファーに一人で寝そべってPSPをしながらそう言う。PSPを止めろとは言わないからせめて顔はあげてほしい。隊長は悲しいぞ。

「そこはともかく!聞いてくれ」

弟くんの対面に座っていた鴇崎くんと、お誕生日席に座っていたヒワちゃんが顔をあげた。

「この時期、ボーダーではランク戦がはじまるわけだ」
「そろそろ誰が出るか考えないといけないですね」
「前回、くぐいと鴇崎で出たんだったかな?」
「人手不足も良いとこでしたよ全く」

なぜか弟くんはヒワちゃんには敬語だ、隊長は軽視されていて悲しいぞ。
それはさておき、そう言われると頭を下げるしかない。
何分この隊は、協調性あまりなく、個々勝手に動いてもらっている。
ちなみに俺が仕事をしていないわけじゃない。仕事をしすぎているばかりに隊の仕事までできないだけだ。
そんな隊で俺は決意した。

「今回は、全員でます!」
「は?」

俺の高らかな宣言は、弟くんのなに言ってんだこいつみたいな声に阻まれる。
しかし俺は挫けない。
いつも「とりあえず適度によろしく」のランク戦だったが、目標ができた。

「A級3位目指します!」
「その心は?」
「A級3位に入れば有給10日くれると鬼怒田さんが約束してくれた」

そう、あの鬼怒田さんが約束してくれたのだ。
『お前のところ次はちゃんとランク戦でるんだろうな』
『誰かはでると思いますよ?』
『たるんどる!全員で出んか!』
『じゃあ仕事減らして』
『なんか言ったか!』
『いえ、別に、なにも。でも俺の隊は上位を狙ってるわけじゃないですし』
『ふん……そんなんだから万年B級なんだ』
『じゃあこうしましょうか』
『冬島さん?』
『次のランク戦、三位以内に入れば有給を与えるってことで』
『え!本当ですか鬼怒田さん!俺がんばります!』
『なに!?そんなこと認めるわけ』
『まぁまぁB級のつぐみ達がどこまでいけるか分かりませんし』
『………まあ、万が一にA級に行ったとして、三位は無いか。……よかろう、約束した』
『やたー!いままでやんわりやってたから、本気出します!』
『は?本気?』
『隊に報告してきまーす!』
『ちょっとまて!こら!』
大体こんな流れだった。
休みほしい、有給ほしい。それが俺のやる気スイッチを押したわけだ。
俺の不純な理由を聞いてみんながほっとした顔をした。

「理由を聞いて安心したなー」
「そうしないと休めない社畜っぷり」
「こら」

弟くんを鴇崎くんが窘めた。
ヒワちゃんが苦笑いを浮かべて零す。

「しかしこの、全員揃うことのない隊でまさかそんな高望みをするとは」

うちの隊にとって、三位になることが高望みなわけではなく、全員揃うことが高望みだ。
隊の任務に現れないのは俺だけではない。

「ヒワちゃんは病院だしね」

そう、個々が個々の理由で来ない。
流石に全員でさぼるわけじゃないけど。
ヒワちゃんは病気の治療があるので、体調の良い時だけ参加。

「鴇崎くんはバイトあるし」

鴇崎くんはカフェでバイトをしているからシフトと被らない日のみ参加。

「弟くんはゲーム発売日はいないし」

弟くんはゲーマーすぎて大体発売日はこない。クリアするまで連絡もとれなくなる。
そして、俺だ。

「つぐみさんは技術者としてのお仕事がありますしね」
「まぁ隊はオペレーターと一人戦えるのがいれば成立するから」
「極論」

隊への参加率は、鴇崎くん>弟くん>ヒワちゃん>俺、だと思う。機能できる最低ラインを維持しながらいままでやってきた。
そんな状況も今日でおさらば。

「そういうわけで今回は3位を目指しまーす」
「なんで1位じゃないんですか」
「え、だって面倒臭い。俺ら別に1位になりたいわけじゃないんだし、1位って仕事増えそうで嫌だし」
「たいちょーがたいちょーでなんか安心した」

あくまで目標は有給取得。
そもそもあまりランクを上げすぎると遠征に連れて行かれる恐れがあるのでそれも嫌だ。忙しいのはもういやだし、通院が必要なヒワちゃんを残して遠征には行きたくない。

どうせなら一位を目指せと言われるだろうか。それともランク戦に出たくないだろうか。
みんなにお伺いをたてる。

「嫌だ?」
「18歳を、全員俺に狩らせてくれたらいいですよ」
「弟くんこわい」

迷いない弟くんの言葉に戦慄く。いつも思うけど18歳組は仲が良いんだろうか悪いんだろうか。良いからこうなんだろうけど、PSPから顔もあげないのは普通にこわい。

「俺は別に、つぐみさんがそうしたいならそれに付いて行くだけです」

鴇崎くんはいつも通りイケメンだ。
多分一番俺のことちゃんと隊長だと思ってくれている。

「ヒワちゃんは?」
「皆で出らるなら楽しそうでいいんじゃないですか」

ヒワちゃんも思ったより乗り気だ。
よしよし、これならかなり三位の座はちかくなってきたな。

「じゃあ次回のランク戦は必ず来る事ってことで」

みんなが予定をあわせて出るランク戦。
ランク戦で全員揃うのはじめてかも…。
なんか楽しみになってきた。
わくわくしながら俺は踵を返す。

「じゃ、俺仕事あるから。任務よろしくー」
「俺も病院だ」

ヒワちゃんも時計を確認してソファーから立ち上がる。
今から任務の時間だけど、今日の所は兄弟にまかせる感じになりそうだ。
弟くんが盛大にため息をついた。

「結局この落ちか」
「次揃うのはランク戦だね」

ごめんねと言うと、弟くんにしっしっと手で追い払われた。酷い。
鴇崎くんは、お仕事がんばってくださいねと言ってくれて、この兄弟の温度差にヒワちゃんと笑いながらその場を後にした。



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