烏丸と恋人



つぐみが目を丸くする。
何が何やら分かっていない顔だ。

「え、お菓子?」
「ハロウィンです」

烏丸がそう言うと、つぐみは徐にスマホを取り出して時計を確認する。
そしてまるで今気が付きましたといわんばかりの表情を浮かべた。

「じゅ、じゅうがつ、さんじゅういちにち…」
「……つぐみさんの体内時計では今何日ですか」
「まだ15日だと思っていた…!」
「狂いすぎですね」

ハロウィンがというより、今日が31日なことにショックを受けている様子だ。
その悲壮感漂う雰囲気を烏丸はまたかと慣れた様子で見つめる。
最後に会ったのも1週間前なのでまぁハロウィンなど吹き飛んでいるだろうけれど。
しかしここで可哀想にと哀むような男ではない。

「っ、え」
「お菓子がないなら悪戯するしかない、ということで」

烏丸はつぐみの腕をつかみ、力任せに引っ張る。
バランスを崩したつぐみは烏丸の座るソファに倒れこんだ。
突然のことにまったく力の入っていないつぐみの無防備さに半分喜びつつ半分不安に思いながら、烏丸は素早く体制を入れ替えてその痩身にのしかかる。
状況が理解できたらしいつぐみの顔が引きつる。

「あ、の、烏丸さん?ここリビング…なんです、けど…」
「大丈夫です、千佳と修は帰りましたし、今日はレイジさんと遊真で朝まで防衛任務です。宇佐美先輩と小南先輩は帰りました。そして支部長と陽太郎は本部に行きました」
「いやいやいや!?」
「迅さんには、今日は遠慮してくださいとメールしておきました」
「っ!?何怖いことメールしてんの!?」

嫌がるつぐみの首筋に顔をうずめると、びくりと身体がふるえる。
その反応の良さに烏丸はうっすらと笑みを浮かべた。

「ベッドまでちゃんと後で運びます」
「そ、いう、ことじゃない…っ」

烏丸の胸を押して遠ざけようとするつぐみの腕をつかむ。
その細くて白い腕に口づけを落としながら、烏丸はつぐみを見下ろした。
顔を真っ赤にして焦っているつぐみに烏丸は艶やかに微笑みかける。

「お菓子を持ってないつぐみさんがいけないんですよ」


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