焼き肉











口に広がる肉汁。
米屋は口角を上げる。

「うっま」
「あー!それ俺の肉!」

緑川ががたっと立ち上がり米屋を指さす。
言われてみれば、肉を置いたのは緑川のような。
しかし網の上に置かれた以上、どれも米屋にとっては一緒だ。
焼けたから食っただけ。

「また焼けばいいだろ」
「俺が目付けてたのに!」
「じゃあ名前書いとけよ、網で」
「ぶはっ!網目で名前書くのかよ!」

米屋が笑えば、緑川は無茶言わないでよときゃんきゃん喚いた。
米屋の発言につぼったのか、出水が隣で爆笑している。
煩くなった卓で唯一ひとりだけ、静かだった人が箸で挟んだ肉を緑川に差し出す。

「緑川、ほら。あーん」
「やった!」

緑川の目がきらりと光ったのを見てしまい、こいつわざと喚いたなと米屋は気づいてしまった。
つぐみの手から肉をもらい、嬉しそうに笑う緑川。
出水が笑うのをぴたりと止めた。

「あ、ずりぃ。迅さんに言いつけてやる」
「それ俺が迅さんに何されるかわかんないやつじゃん!」
「?俺は緑川がうるさかったからやっただけだよ?」
「あ、そうっすよねー…」
「つぐみさんに他意がないことぐらい全員分かってます」
「むー」

むくれる緑川に、つぐみは笑う。
そのむくれた表情すら狙っているように思えてきた。
今はまだ無邪気で済まされるかもしれないが、あと1,2年もすれば立派な策士だ。
慕っていると思っている後輩に、既に目をつけられてますよと米屋は内心つぐみに合掌した。
網に肉を乗せて完全に焼き係に回っているつぐみに出水が首を傾げる。

「つかもう食わないんですか?」
「俺はもういいかな」
「つぐみさん小食ー」
「食べ盛りと比べたら俺はもうだいぶ枯れてるからねー」
「全然枯れてないじゃないですか!」

何かと年寄りみたいなことを発言するが、つぐみをそう思っている人間などボーダーには一人もいない。
むしろ枯れてるどころか瑞々しい華で、狙われまくりだ。
現に、今日はいつものツナギと白衣ではなく、普通にグレーのVネックセーターをきているせいか大人びていて色っぽい。
そんなことを全く知らないつぐみは米屋達にふわりと笑いかける。

「米屋くんたちはいっぱい食べてね。お礼なんだし」
「あざっす!」

元々米屋には「遠慮」の二文字は頭になかったが、本人の太鼓判をもらえるとより箸が進む。
焼けた肉を網から取り、タレをつけて口にほうばる。
緑川や出水も似たように焼けた肉を各々確保していた。

「つぐみさんまじで変態ホイホイなんですねー」
「そっか、緑川は初めて見たのか」
「外出って危険がいっぱいだよね」
「それ多分つぐみさんだけですよ」

米屋達が焼き肉をおごってもらっているのはまたしても変態に絡まれているつぐみを助けたからであった。
米屋と出水には見慣れた光景だったので手早く追い払ったが、緑川は噂に聞く程度だったようだ。
本部からの帰りに偶然居合わせただけだが変態のおかげで米屋達は焼き肉にありつけた。
完全に役得だ。

「追い払うだけで焼肉おごってもらえて俺はラッキーですけど」
「確かに。しかも此処の肉めっちゃうまいし」
「出水くんや米屋くんには高確率で助けられてるから、普段のお礼もこめてね」

本人もなるべく気を付けているらしいが、何をどうやっても変態に目を付けられるらしいつぐみ。過去視とは違うサイドエフェクトなのではないのかと思うが、そうではないらしい。持って生まれた体質だと言うから、本人にしたらたまったものじゃないだろう。
つぐみはいつもと変わらない笑顔で米屋達に笑いかける。

「いっぱい食べていいよ。俺普段出かけないから、お金ならあるし」
「おお、大人」
「普段出かけないっていうあたりが余計だけどな」

出水の的確な突っ込みに米屋が噴き出したところで、新たな肉の乗った皿が店員によって運ばれてきた。







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