烏丸と









喉が渇いたのでリビングへと向かうと、烏丸くんが静かにキッチンに立っててすごいびっくりした。
何してんのと聞いたら、喉が渇いたので、と。
だったらもっと存在感を出してほしい。
すっといるので怖い。
まぁ存在感がある烏丸くんというのも想像し難いが。
緑茶が飲みたいと思い、俺は緑茶のパックを取り出してコップにいれる。
ポットを見れば残量が少ないようだ。
水を注いで沸くのを待つ。

「つぐみさん、結婚を前提に付き合ってください」
「は?」

唐突になに。
いやしかも、今思い出したみたいな、取ってつけたようないい方だったよね。
今までの経験的にもあしらうやつだなと判断した。

「寝言は寝て言え」
「起きてます。寝言じゃないです」
「じゃあちょっと寝て。寝不足なんだよきっと」

正気に戻ってくれ。
俺はついでにお菓子でも食べようかなと冷蔵庫を開ける。
今日は実はプリンを作ってある。
何を隠そう、俺が作ったプリンだ。
料理は嫌いだが、お菓子作りは結構好きだったりする。黙々と…出来るからね…。
女の子みたいで知られたくなかったので東しか知らなかったことだけれど、最近そろそろ作りたい欲求がすごくてついに玉狛で作るようになってしまった。
意外に好評で、特に女性陣とお子様には大好評で、別に隠す必要はなかったなと。
冷蔵庫に残っているプリンに安心して一個取り出す。一応人数分作る様にしているが、食い意地がはっている子がいるのでたまに足らない事がある。
そうだ、食い意地の子もいないのに烏丸くんはなぜそんな話をしたんだろう。

「陽太郎くんもいないのに何でそんなこと言い出すの」
「いえ、CMで。エンゲージリングが出ていたので」
「そんなことで!?」

テレビはもうバラエティー番組になってしまっていて、問題のCMは確認できなかった。
しかしそんなことで一々こいつ求婚するつもりか。

「エンゲージリングのCM見るだけでそんなことしてたら君は一体何人に告白するのさ。プレイボーイか」
「大丈夫です、つぐみさんにしか言いません」
「安心したけど嬉しくないな」

断言されたのが逆に怖い。
俺にしか言わないってどういうことなの。俺になら何言っても良いと思ってるの。
プリンをキッチンカウンターにおいて、スプーンを取り出す。

「嬉しくないんですか」
「そりゃだって、烏丸くんは可愛い年下以外の何者でもないしなー」

烏丸くんに限った話ではないけれど。
そもそも本気じゃないのに真に受けないよね。あまりに言われ過ぎて若干慣れてきたし。
スプーンをカウンターに置いて、ポットを確認する。
もう直ぐお湯が湧きそうだ。
俺がそれを待っていると腕をとられた。

「っ」

くるっと向きを変えられて、背中をカウンターに押し付けられる。
烏丸くんが俺の身体を挟むようにカウンターに手をついた。
なんか近い。戸惑って烏丸くんを見上げれば、いつもと変わらない表情にみえる。でもきりっとしているような気もする。
烏丸くんがぐっと身体を近付けてきた。
布越しなのに、烏丸くんの体温を感じて恥ずかしくなる。
しかも顔を近付けてくるから、イケメンの顔が近いのは流石に照れる。
俺が顔を赤くして硬直しても、烏丸くんは表情は大きくは変わらない。

「年下は範疇に入りませんか」

無駄に良い声で囁くのは止めてください。
吐息が唇に掛るほど近くて、俺は戸惑う。

「え、あ」
「俺、本気ですから」

じっと俺を見つめる濡羽色の瞳。
そこに困惑した表情の俺がうつっていた。
この人誰だ。
いつもの、飄々とした感じがない。こちらが火傷をしてしまいそうなくらいに、熱い。

「からすま、くん…?」
「東さんより、迅さんより……他の人より意識させて、絶対に、頷かせてみせます」

烏丸くんはふいに俺の手を掴んだ。
びくりと身体を震わせて驚くが、烏丸くんは気にせず俺の手首に顔を近付けて。
そのままキスした。
何で手首なの。他の所が良かったとか断じてそう思ったわけではないけれど、吃驚しすぎて普通の突っ込みがわいてしまった。
それより気にした方がいい事あるだろ自分。
何も言えないでいる俺に、烏丸くんはふっと笑みを零してから、リビングを出ていってしまった。
解放されて力が抜けた俺はその場にずるずると座りこむ。
赤くなった顔を手でかくし、膝を抱えた。
今のなに。いつものふざけた烏丸くんじゃなかった。ふざけてないってことはつまり。

「え、…まじ、なの?」

俺の問いに答えてくれる人はおらず、ただただテレビとお湯が湧いた事を知らせるポットの音だけがリビングに響いた。







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