東と恋人









うわ、びっくりした。
思わず声が出そうになり、俺はぐっとこらえた。

目を開けたら東の顔がどアップだった。
混乱する。
昨日は仕事がやっと山を越えて、これで玉狛に帰れると安堵した。ところで、記憶がない。
多分自席でそのまま寝落ちたんだと思う。
それを東に回収されたのかな。

見渡せば東の家の寝室のようだ。多分俺の予想は外れていない。
ていうかわざわざ二人でベッドで寝なくても、ソファーにでも転がしておいてくれればいいのに。狭いだろう。
俺はそっと身体を起こして部屋にあった服を適当に拝借して寝室の扉をそっとしめた。
東はまだ寝ていた。
スナイパーだから眠りは浅いはずなのに、昔から東は俺の傍ではぐっすり寝る。貧弱な俺に寝首をかかれる心配がないと思ってるんだろう。遺憾だ。

「うわ…洗濯物たまりすぎ」

洗面所を覗いたら洗濯物がこんもり溜まってた。
一人暮らしだからって流石に溜め過ぎだ。
一回じゃ無理だと判断して俺は何回かに分けて回すことにした。
自分の着ていた服もついでに洗濯しようと思い、服を脱いで、東の洗濯物の一部と共に、洗濯機につっこんだ。
洗剤を入れて、電源を入れる。
動き出した洗濯機を見届けて、俺はシャワーを勝手に借りる。
あー、生き返る。
簡単に汗を流して、脱衣所に出た。
タオルを拝借して着替える。髪はまだ濡れてたけどその内乾くだろう。
しかし東のシャツだからでかいなぁ。
下のズボンは前に置いて行った自分のやつなのでジャストサイズだ。
上のシャツがやたらオーバーサイズで、鎖骨すごいでてるし、裾がワンピースかって感じだが、まぁ誰に会う訳でもないからいいか。首からタオル掛ければ肩は隠れるし。
洗濯機をおいてリビングに向かえば、多分こっちは洗ってあるんだろう服の山が目に入った。
畳むくらいしろよ。
俺は冷蔵庫から勝手にミネラルウォーターを拝借して口をつける。
はぁ、おいしい。

一息ついてから俺はその山に手をのばした。
ちゃっちゃと畳んだら次は掃除だ。
洗濯物を部屋の隅に置いて俺は立てかけられていたクイックルワイパーを手に取る。
本当は掃除機をかけたいところだけど、東が寝てるからね。
黙々と部屋の掃除をしていく。
掃除も洗濯も大好きだ。
綺麗になるのはすっきりする。
綺麗好きという訳ではないが、黙々と何かをするのが好きなんだと思う。
料理は好きじゃないけど。
よし、綺麗になった。
テレビ台の隙間を掃除して顔を上げると、じっとこちらを東が見ていた。

「ひっ!?なんだ、東か……びっくりした……」

まじでびびった。
今日二度目も驚かされたわ。
音も無く後ろでじっとしてるの止めてほしい。

「つぐみ、おはよ」
「おはよー」

挨拶を返して俺はクイックルワイパーについた汚れたシートを取り外す。
大往生だなってくらいに埃がとれた。

「悪いな」
「そう思うなら掃除も洗濯もちゃんと自分でやってくれ」

東は、決して生活能力がないわけではない。
大学とボーダーで、主にボーダーが忙しく、つい家事を後回しにしてしまうらしい。いや、それなら俺と一緒だったさほど忙しく見えなかった大学時代も洗濯してなかったのはなんでだよというツッコミは呑み込んだ。東が困らないならどうでもいいや。

「…なに?」
「いや」

じっと俺を見つめる東に首を傾げる。
何がしたいのか全然わからん。寝ぼけてるんだろうか。
邪魔ではないから好きにさせておこうかと思ったが、洗濯機が洗濯終わったよと音を鳴らした。

「あ、洗濯機終わった」

俺はクイックルワイパーのシートをゴミ箱に捨てて、洗面所へと向かう。
今日は快晴だ。外に干そう。

「メシどうする?」
「作ってー」
「了解」

東が俺の背中に聞いてくるので、よろしくと手を振った。
料理は基本東に任せて俺はしないのを、東も良く知っている。
手に濡れた洗濯物を抱えてベランダへと向かう。
干す前に次の洗濯物を洗ってしまおうと俺は手に持っていた物を床に置いて、ついでにと寝室に足を向ける。
よし、布団は窓に干して。

「あずまー、シーツも洗うからねー」
「ああ、頼む」

ベッドでしわくちゃになってるシーツを引きはがして洗濯機へと持って行く。残りの洗濯物と一緒に中に放りこんで、洗剤を入れれば準備オッケー。電源を入れて再度回す。
よし、後は干すだけ。
俺は来た道を戻り、リビングを通過する。

「つぐみ」
「んー?」

呼ばれて顔を向ければ、東が手招きしていた。
手に小さなスプーンを持っている。味見か。
東の持つスプーンに直接口を付けて味をみる。トマト味のスープだ。

「おいしい」

俺が頷けば、東は俺の頭をくしゃりと撫でて鍋に向き直った。
洗濯物が残っているので俺もベランダへと向かう。
手早くさっさと干していく。
東の家は日当たり抜群だから直ぐに乾くだろう。こんなに日差しに恵まれた環境に住んでいるんだから洗濯物くらいちゃんとすればいいのに。

「もう食えるか?」
「うん」

リビングからかけられた声に返答をしてベランダを見まわす。ばっちり干された洗濯物にすっきりした気持ちになってから、部屋の中へと戻った。
机の上には既にご飯が並んでいる。
トマトスープにパンにサラダ。
お洒落か。お洒落すぎじゃないか。
モテ力を見せつけられたようでいらっとしたが、久しぶりの温かいご飯に文句は無い。
いそいそと椅子に座れば、向かいに東も腰を下ろした。

「いただきます」
「いただきます」

二人で手を合わせて食事をする。






「ところでつぐみ、髪びしょびしょじゃないか」
「うん」
「乾かせ」
「東が後で乾かしてくれるって信じてるから」
「はいはい。後でレポート手伝ってくれ」
「大学院生のレポートなんて手伝えるわけないじゃん何言ってんだこいつ」
「お前なら出来る」
「修造か」



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