罰ゲーム「付き合うことになりました」の結果えらいめにあう諏訪B








リビングへと続く扉の前に俺と諏訪くんは立っていた。

「あー…もうやだ」
「最後だから、諏訪くんがんばろう」

諏訪くんは既に疲れ気味だ。
俺も前回のでかなりこりて、げっそりしている。
そう、罰ゲームは前回ので終わりじゃなかったのだ。
堤くんと冬島さんで、二人だから、罰ゲームも二回って…アホか……。
そして結局冬島さんが決めてるんだから実質二回の意味がない。
はぁあああと長い溜息を二人して吐く。
嫌がっても終わらない。
諏訪くんが換装体になっているのでカメラが起動しており、冬島さんと堤くんは諏訪隊のオペレータールームから見ているらしい。
意を決して諏訪くんが扉を開けた。

「邪魔するぜ」
「ただいまー………う、フルメンバー」
「支部長までいんのかよ…」

こんな時に限って全員いた。
俺と諏訪くんは小声でお互いの不運を嘆く。

「諏訪さん?」
「諏訪?」

不思議そうな声をみんなが出す。
そう、俺たちのまさかのミッションは玉狛への報告だった。
諏訪くんは断固として拒否していたが、冬島さんには勝てなかった。
またしても全く幸せじゃなさそうな声で報告する。

「ご報告がありまして」
「俺ら付き合うことになりました」

もっと煌びやかに挨拶をしろと冬島さんに指摘は受けたが無理だ。ガチにされたら俺と諏訪くんは生きていけないからそこは無視した。これが俺らの120%の演技力ということにした。

「は?」
「え」

全員が一瞬静止する。
東みたいに静かに起こるタイプはいないみたいだ。

「ぇええええ!!!!????」
「な、え!?」

小南ちゃんの叫びを皮きりに、全員が金縛りから解かれたように前のめりにつっかかってきた。
俺は烏丸くんに両腕を掴まれる。

「つぐみさん、本気ですか」
「あー、えーと…とりあえず烏丸くんはちょっと顔が近いですね…」
「つぐみ、俺との約束は…!俺との…!」
「泣いた!?陽太郎くん泣かないで!」

烏丸くんの顔が近いのを遠ざけようと、顔を逸らしたら、脚に陽太郎くんがしがみついてきた。
泣きながら拘束されて、文字通り手も足も動かせなくなる俺。

「なんで諏訪さんなの!?絶対に認めない!!!」
「さすがにお前でも手をだしていけない相手ぐらい分かってると思ったが…」
「ああ!?失礼だなお前ら!!!」

諏訪くんは諏訪くんで小南ちゃんと木崎くんに絡まれていた。
小南ちゃんは軽く殴りかかりそうな雰囲気だ。

「諏訪さんは大穴だったなー」

ちなみにうさちゃんは眼鏡を光らせて興味津々だった。なんか一番怖い。
林藤さんは気がついているのか半笑いだ。困ったなぁと言いながら頭へと手を当てる。

「あらら……って、おい迅?大丈夫か?」

唯一なにも言わないのは迅くんだった。
静止している迅くんに、恐る恐る声をかける。

「じ、迅くん?」
「あ、いや、ちょっと吃驚して…」

本当にびっくりしているみたいで、目が泳いでいる。え、え、まじで?
迅くんは首に手を当てて、目を伏せた。

「あー…つぐみちゃん、おめでとう?」

この人信じてるよ…!!!
サイドエフェクがあるから絶対直ぐにばれるかと思っていたが、見逃したのか、それとも会話の内容は視えないから気がつけていないのか。
思ったより純粋でびっくりしたし、そもそもこういうリアクションでくると思わなかった。
罪悪感がすごい。
俺はあっさり負けて白状しようとする。

「迅くんごめん!実はむぐっ」
「ちょっと待ったぁ!」

諏訪くんが俺の口を手でふさいだ。
そのまま俺の首に腕を回して、周りに聞こえないように声を潜めて話す。

「つぐみさん、絶対、言うなよ」
「だってあんな迅くん見たことないし流石に可哀想だよ!」
「10分まだ経ってないっての!」
「でも!」

こんなの本意じゃない。
誰も信じないだろうと思ってたし、まさかあんないかにもショックですっていう感じになるとは思っていなかった。
申し訳なさでちょっと泣きそうになると、諏訪くんは慰めるように俺の頭を雑に撫で、「後少し我慢しろ」と言った。

「いちゃつくの見せつけてるんですか、諏訪さん」
「諏訪さんちょっと顔貸してもらえます?」
「お前らこぇえよ!」

そんな俺らを何か勘違いしたらしい烏丸くんと小南ちゃんが腕をぶんぶん振っている。完全に武力を使う気だ。
今にも掴みかかりそうな二人をおいて、林藤さんが暢気に手を打った。

「よし、こうしよう」

その声に全員がそちらに顔を向ける。
俺はその顔を見て、あ、この人ろくなこと考えてないな、という直感が過った。

「玉狛はほぼ全員反対だから、諏訪には戦ってもらう」
「あれ、この展開デジャビュ?」
「玉狛戦闘員を倒せない奴に結城を嫁にはやれん!」
「またこの落ちかよ!!!」
「いや、そもそも男なので嫁じゃないんですけど」

相変わらず俺の言葉はみんなには届いていない。
そして林藤さんの一言によりみんなやる気を出したのか準備運動をはじめた。正直、換装体で動くんだから、生身の準備運動とか意味ない。
諏訪くんは全力で逃げ出そうとしたが、その前に木崎くんに掴まっていた。
俺はそれを冷静に見送った。

「がんばれ」
「おい!!!」

全く助ける気の無い俺に、諏訪くんは最後まで喚いていた。
ごめん、諏訪くん。心の中で10回くらい謝罪して、俺は見捨てた。
みんなが居なくなった所で、俺は迅くんにかけよる。

「迅くん、あのね」
「ごめん、今、あんまり話しかけないで、ほしいかも」

手を触ろうとしたらさっと迅くんが離れて行ってしまう。
迅くんが俺を拒絶した。
頭が真っ白になった。
なんで迅くんがそんなにショックを受けているのか、俺はこんなにショックなのか、よくわからないけれど、この誤解は今直ぐに解くべきだと思った。

「冬島さんもういいよね!?」
「冬島さん?」

実は俺も換装体で、冬島さんがげらげら笑っているのがずっと聞えていた。
俺がそう叫ぶように言うと、『おう、もういいぞ』とお許しをくれる。
もう絶対、こんなことしない。こんな、ろくでもない嘘は罰ゲームでもつかない。

「ごめん!本当にごめんなさい!」
「へ?」

迅くんの腕を握って、俺は頭を下げた。
突然出てきた冬島さんの名前と俺の態度に、きょとんとする迅くん。
そこから俺は全力の謝罪となったわけだった。


もう冬島さんと賭けは絶対しない。



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