大規模侵攻1












そろそろ足元ふらつくなぁ。
眠い、でも仕事が。そうだ、ドーピングしよう、てなことでエナジードリンクを自販機で買う。
これを別のエナジードリンクと混ぜて飲めば元気100倍だから。俺の寿命は縮まっている気がしてるけど。
俺がのろのろとエナジードリンクの缶を自動販売機の吐き出し口から取り出すと、冬島さんがこちらに歩いてくる。
向こうも大分お疲れみたいで夜勤明けのヤクザみたいな顔をしていた。顔見知りじゃなかったら逃げていたと思う。

「結城、お前も加われ」
「なにがです?」

だんだん聞き取る力が弱くなっているのか言いたいことが察せなくなってきた。
いかん、はやくドーピングをした方がいい。役立たずだとは思われたくない。
冬島さんが頭の後ろに手をあてて大きな欠伸をする。

「大規模侵攻の作戦会議」

その言葉に俺が嫌そうな表情を浮かべてしまうことを許してほしい。
なんで俺も参加せにゃならんのだい。

「えー…、そういうのは上層部の方で」
「林藤さんもお前を呼んでる」
「まじかよ……」

俺が顔を覆って嘆くと、「おい、寝るなよ」と冬島さんに釘をさされた。
酷い、寝るならちゃんと横になれる場所で寝るよ。



***



すっごいうるさいサイレン音に、ちょっと飛びかけていた意識が戻ってくる。
横で同じく死にかけだった冬島さんもはっと顔をあげた。
一通り準備を終えて待機時間となり、最初は雑談していたつもりだが、座ってしまったせいでどっと疲れが出て二人で自販機の椅子で燃え尽きてしまっていた。真っ白になっていたと思う。

「ゲートが開いたな」
「そーですねー」
「トラップ正常に動いたと思うか?」
「あれで動いてなかったら泣けますよ。泣いて俺玉狛に逃げ帰ります」
「俺も一カ月くらい逃亡するわ」

片っ端から思いつく限り冬島さんと案だしまくってトラップを仕掛けまくった。
あれ、俺トリガー専門じゃないの。もうそんなこと言ってられなかった。
地獄から生還できただけマシだ。エンジンニアは何人か倒れた。その屍を俺たちは超えた。

「あーくそ眠い」

目を揉みながら愚痴る冬島さんに俺は無言で何度も頷く。
もう何百回そう思ったことか。かつてないほどの徹夜だ。いつもは何度か仮眠をとるけど、休みなしのトライアスロン?体力と精神力がないともたないよ、そりゃ人も倒れるよ。
俺はそろそろお腹に優しいものでも入れておこうと立ち上がる。
食欲は全くないが、食べておかないと持たない。
外を見ていないので状況は不明だが、サイレンがなったからにはこれから漸く本番の大規模侵攻が起こる。そんな最中に体調不良で医務室行きとか鬼怒田さんのゲンコツ確定だ。
疲れで胃が死んでいる気がする。おかゆとかしか無理だなぁと思ってる俺とは違い、冬島さんは肉が食いたいと言っていて俺は戦慄いた。どういうことなの。

「東出たのか?」
「出たと思いますよ」
「迅も出たのか?」
「出たと思いますよ」

先ほどのサイレンの音を聞いたのか、バタバタと廊下を走る隊員たち。
出動は基本的に隊で行動を義務付けられているが、A級は特別に指示がなければ緊急時には各隊に判断をゆだねられている。
俺の端末には、現在本部にいる人間と、本部に向かっている人間、現場に向かっている人間の名前が瞬時に表示されており、冬島さんのあげた迅くんも東も現場に向かっているようだ。
あれ、三輪隊は別行動なのか。
冬島さんが意外そうな声を出す。

「なんだ、わりと淡々としてるな」
「うーん…まぁその、少なくとも俺より皆強いので、大丈夫かなぁと」
「なんだそれ」

なんの確証もないけど、迅くんは他の人間のことは話さなかったし、俺よりみんな強いから大丈夫なんじゃないだろうか。
食堂へ到着すると、あまり人影はない。
まぁそうだよな。この緊急時に飯食ってるやついないよな。

「つぐみさーん!」

顔を上げる。
手を振っているのは私服姿の太刀川くんだった。
やばいあの人この有事にがっつり食ってる。

「太刀川くん」
「何食べてるんだ?」
「餅」
「まさかの今この状況で」
「マイペースだな、さすが1位の男」

しかもよりによって餅食ってる。
これが何度も遠征に出ているA級1位の余裕なのか。
俺と冬島さんがそのマイペースぶりに戦慄くと、俺のPHSがけたたましくなった。
鬼怒田さんだ。冬島さんにも聞こえるように音量を上げて俺は直ぐに電話をとる。

『結城!何処におる!』
「食堂です」
『隊員を捉えるトリオン兵が現れた!』
「隊員を捉える…?」
『諏訪が捉えられた』

え?え?
諏訪くん捕獲されたってどういうこと?
状況がわからないけれど、ここにいても仕方がないと研究室に戻ろうとする。

「っ」

どんっと大きな音が建物に響く。
建物が振動し、俺はふらついたが、太刀川くんと冬島さんが支えてくれた。
有り難いけれど、座ってる太刀川くんはともかくなんで冬島さんが耐えられたのかが謎だ。

「揺れた!?」
「なんだ!?」

ざわつく食堂や廊下に、俺と冬島さん太刀川くんは直ぐに察した。
本部が攻撃されている。






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