黒トリガー争奪戦A








迅くんと約束したお迎え場所に向かう。
大分遅い時間になってしまった。空は暗くなってしまっている。
いつもなら泊まっていくような時間だが、なぜか今日は迅くんも本部で予定があるということでお迎えの時間を遅くしていた。
待ち合わせ場所で迅くんの顔を見ると、脳裏に様々な光景が飛び込んでくる。

太刀川くん達遠征組に三輪くん達が追加したチームと、迅くん嵐山くん達が相対する姿。
ベイルアウトする面々。
上層部に差し出された風刃。

「………」
「色々視えちゃった?」

俺が言葉を失うと、迅くんがぼんち揚げを差し出してきた。
そんな悠長な状況じゃないと思う。
だから、遠征後にみんなが慌ただしく出て行ったのか。俺と目が合った出水くんが気まずそうな顔をしていたことに、合点がいった。
俺は溜息をついて、ぼんち揚げを断って外に歩きだす。

「風刃手放しちゃったのかー」
「メンテ出来なくなって名残惜しい?」
「うん。あれは特に面白かったからね」

ブラックトリガーはそうそう点検できるものじゃない。
玉狛にいた特権で点検出来ただけで、本部に普通に入隊していたらブラックトリガーのメンテナンスなんて一生出来ないだろう。
現に、今も天羽くんのトリガーは見させてもらえていない。
ああ、残念だ。と思うのと同時に、それ以上の衝撃の事実も視えてしまった。
俺にとってはこちらの方が大変だ。

「…玉狛に知らない子が三人増えているのが視えてしまい」
「ああ、新人」
「―――ぇえ!?」

聞いてない!
俺はショックを受ける。
そんな大切なイベントに立ち会えていなかったなんて。そもそも知りもしなかったなんて。

「すごいショック……」
「見えてなかったんだ」
「逐一全部見えてるわけじゃないよー…」

俺も歓迎してあげたかった。
哀しんでも失った時間は戻らない。これからのことを考えよう。

「うう…でも遠征終わったし暫く本部には行かなくていいはずだから、新人の子と会う時間ぐらい捻出できるはず…」
「うーん、どうだろ」
「え!?まだ何かあるの!?」
「これから、ね」

含みのある言い方に俺は驚く。
この人まだ何か視えていらっしゃるらしい。

「つぐみちゃんにも、その内話すことになるし」

振り返れば迅くんは真面目な顔をしていた。
俺たちは足を止めた。
迅くんは少し眉をしかめている。
言うか言わないか悩んでいる顔だ。
迅くんは大きく息を吐いて首に手当てて顔を伏せた。

「つぐみちゃんの今後を左右する選択肢もある」

やっぱり俺絡みの悩みか。辛いサイドエフェクトだなぁと思う。
ずっとそれを繰り返す運命に、迅くんはいる。

「最善の道に連れて行きたいけど、俺は、多分傍には居られない」

きっと俺が一人じゃそういう運命を跳ねのけられないから余計に心配になってしまうんだろう。
迅くんが俺の表情を窺うようにこちらを見てきた。
俺はその額に軽くチョップする。

「っ!」
「眉間に皺」

俺は笑みを作った。
まぁ俺の今後は良く分からないけど。

「まぁ精々頑張るかな」
「つぐみちゃん……」

迅くんの杞憂を払いのけられるように、俺も頑張って動こう。
俺にはそれくらいでしか迅くんを助けてあげられない。

迅くんは、何とも言えないような表情を浮かべていて、それだけ厳しい展開が待っているのだと悟った。



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