大規模侵攻11







何だこの状況は。
俺は痛いほどの視線を感じて、冷や汗を流しながら縮こまる。

部屋の前に立ち尽くす俺を男はそのまま指令室に入れた。
入室した瞬間からミラの冷たい視線がぐさぐさと刺さる。
俺は男に連れられるまま部屋の隅の椅子に座らされ、男が向かいにどかっと腰を下ろす。
気まずいし、こんな突入の仕方想像してなかった。
ただただ居たたまれず俺は顔を伏せて、内心焦りまくっていた。ど、ど、どうしよう。

「…何で連れてきたんですか」
「部屋の前にいたんだよ、別にいいだろ。生身だし、こんな非力でどうこうできるわけない」

戦力外通告かよ!そうなんだけどさ。
ミラの非難の声ももろともせず、男はあっさりとそう口にした。
なおも続くミラの冷たい目に男は口の端をあげる。

「それに、何かあれば俺がトリガーを使えばいい」

今は背に蝙蝠みたいな翼がないので、俺が遭遇した姿はトリガーを使用した姿だったのだろう。
こいつがトリガーを発動したら、あの姿になる。そう思うと、フラッシュバックするような感覚を覚え、俺は手をきつく握った。

「貴方」
「は、はい」

男に何を言っても無駄だと思ったのか、ミラは唐突に俺に声をかける。
年下の女の子に怯えるのは情けないが、この子は人を殺しているのだ。怖いに決まっている。
俺は慌てて顔を上げて視線を向ける。

「どうやって外に出たんですが。鍵をかけていましたよね」
「…あ、いや…よくわからないけど、扉の前に居たら…開いたので…」

視線が痛い。絶対に信じてないよこれ。まぁ嘘だしな。
非力だと思われているならそう演じておくに越したことはない。
俺が如何にも困惑して怯えていますという雰囲気を出したら、ミラは漸く俺から視線を外した。

俺を見つめなくなったのは嬉しいけど、この状況は大変困った。
俯きさりげなく部屋を見回すと、机の上に俺のトリガーがあった。エネドラのトリガーはどこかに格納しているのだろう。ブラックトリガーは貴重だから、普通はそうする。
今の状況でそれに飛びついても良いことはない。ミラが空間をつなげた瞬間、逃げるしかない。

「名前は?」
「………」

室内は、他には多くのディスプレがあった。そのディスプレは全て起動し、戦いが映像として送られてきている。
遊真くんに、迅くん、三輪くん、東…皆戦ってる。
俺も諦めたらだめだ。

「同じ事を二度口にするのは好かない。無理やり口を開かされたいか」
「…結城です」

俺が男の問いかけを無視していると、苛立ったように顎を掬われた。
無理やり顔を上げさせられ、男を視界に入れる。
眼鏡越しにあった視線に、男は満足そうに頷く。
暫し俺の瞳を男は観察し、そして俺の顎から手を放した。

「その瞳……お前、不思議な力を持っているな」
「………!」
「はは、分かりやすい、昔お前に似た女が俺の国に居てな、そいつも変わった力を持っていた」

顔に出ていただろうか。
口元を手で覆いながら相手の言葉に訝しむ。
この瞳というだけで、サイドエフェクトが共通するとは限らない。というか、そもそも、不思議な力とやらが、サイドエフェクトとは限らず。能力が知れたと早合点しぼろをだしてはいけない。
落ち着くためにこっそりと息を吐く。

それにしてもこの男、その女の人を俺に重ねているんだろうか。
俺がそう疑問に思うと、男は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「お前がそいつだと思ってはいない。図に乗るなよ、それぐらい理解している」

その言葉に身を委縮させる。
なら何で、俺を連れてきたんだ。その女の人と同じだと思ったから、俺にその代わりをさせようとしているんじゃないのか。
口から飛び出しそうになった言葉を飲み込む。
男は俺の様子には気が付かず、つまらなそうにディスプレを指さす。
促されるままに俺もそれを見た。

「どうだ、お前の仲間が戦う様は」

遊真くんが、白髪の老人と敵対している。
傍目からしても、老人はかなりの手練れなのは理解できた。
だってブラックトリガーを使う遊真くんが手古摺ってるし、それにあの老人、角がない。
劣性だ。
俺はその戦闘風景に釘付けになる。
その俺の横顔を見て男は言い切る。

「しっかり見ておけ、奴らの顔を見れるのは、これが最後だ」



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