大規模侵攻9




次に目を覚ますと、見知らぬ部屋にいた。
身体を起こし下を見れば、くしゃりと布に皺が寄る。簡易的なベッドに寝かされていたようだ。
部屋をぐるりと見回しても随分と簡素で…そうか、何かに似ていると思ったら、遠征艇に似ている。

身体を動かそうとすればずきりと足が痛んだ。
はっとそちらを見れば、止血されて包帯が巻かれていた。
それが、先ほどのことは現実だと告げる。

胸元を抑える。
人が、死んだ。しかも殺されたのだ、トリガーで。
改めて戦争だということを実感し、俺はぶんぶんと頭を横に振って、気を引き締めなおす。
こんなところで気落ちしている場合じゃない。

迅くんが教えてくれた俺の踏ん張りどころは此処だ。

再度ぐるりと部屋を見回す。
此処は間違いなく敵の遠征艇だ。あの女の子に連れてこられた。
幸いなことに拘束はされていないようで、俺は足を庇いつつ床に下りる。
部屋にはトイレとシャワー室がついていた。
すごい、うちの遠征艇なんて共有だぞ、と謎の感動を覚える。
他に調度品類はなく、窓も当然ながらない。
扉は一つで、室内にはぱっと見、監視カメラはなさそうに思えるが…敵の技術がどこまで進歩しているのかはわからないので何ともいえない。
しかし生身で非力な俺に構っていられるほど敵も暇ではないだろう。
皆が敵を苦戦させればさせるほど、俺は動きやすくなる。

ポケットをさわると、そこにトリガーはない。まぁ、そうだよね、奪うよね。
しかし相手もあまり俺に時間をかけていられなかったようで、それ以外のものは奪われてないなかった。
エネドラと呼ばれていた彼とも、戦闘をしておらず逃げていただけなので、非戦闘員の非力な一般人だと思われたようだ。

あの女の子、容赦なく殺すから怖いけど、そういうところ杜撰な感じで助かった、有難う。

胸ポケットからパスケースを出す。
当然パスケースなので、そういったものも入っているが、俺は間に違うものを忍ばせていた。
取り出したのは小型のフィルム。一見ただのフィルムだが、侮るなかれ、玉狛の技術力。

「展開」

俺がそういうとフィルムが展開を始めて投影型のディスプレイとキーパッドが現れる。
すごいでしょ、玉狛エンジニアの技術で作りました。
ネイバーの知識があるっていいよね、発想にないことをできるから。
俺はその投影機から扉のセキュリティにアクセスする。

「こうなれば脱出は難しくないな」

問題は、此処からどうやって向こうに戻るかだ。
遠征艇は実際に着陸していたわけではない。
近界からあの空間を超える女の子の力で飛んでいるのだろう。
俺がうかつに外に出れば、何もない狭間に出てしまう可能性があった。
それはつまり死を意味する。
彼女が再度向こうと空間をつなげた時に、俺は飛び出さないといけない。

「よし、ロック解除」

扉が音もなく開く。
警戒して外を覗くが目の前は廊下で、人の気配はない。
警報機が作動する様子もなく俺は安心して外に出ることにした。
壁に寄りかかりながらひょこひょこと歩く。
先ずはトリガーを探したい。そうしないとまともに歩けないので、敵と対峙したときに困る。
それに、トリガーさえあれば、少しは戦えるだろう。

曲がり角等を気を付けていたが、此処まで誰の姿形も見なかった。あっという間に船尾にたどり着く。
恐らく空間をつなげる子以外は出払っているのだろう。
少し胸を撫で下ろす。
女の子がいるとしたら船首あたりだろうと思い、俺は船尾である部屋を探す。
機材室があるとすれば、船尾のはずだ。




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