大規模侵攻4 雷蔵は腕を組んで画面を凝視する。 2進数から16進数への変換は終わっていた。 しかしこの次への足がかりがわからない。 「駄目だ、全然分からない」 誰かがそう呟くのが聞こえた。 雷蔵は隣をちらりとうかがう。 紙にペンを走らせているので高速で頭を回転させているようだった。 何かを書いてはそれを×で消し、新たに何かを書いている。 そろそろ来るなと雷蔵はつぐみに声をかける。 「16進数にして出てきたのは全てすべてアルファベット。つぐみ、次は?」 「……うーん………ポリュビオスの暗号表で、一応それっぽくなるけど……」 「は?」 つぐみのことをよく知らない担当者が怪訝そうな声を漏らす。 それを無視して雷蔵はつぐみからメモの紙を受け取る。 雷蔵が2進数から16進数に変換したことによりでたアルファベットは、つぐみにより数字に戻されている。 「これでまた数字に逆戻りじゃないか!」 「いや、さっきと数字の羅列が違うな」 憤慨する人間を無視して、つぐみの先輩にあたる人間が雷蔵のディスプレイをのぞく。 二人ともつぐみを全く疑っていなかった。 本部に出向するようになり共に仕事をするうちにつぐみの頭がいかに役立つかは理解してる。どこで林藤が見つけてきたのか知らないが、羨ましい拾いものをしたものだ。鬼怒田含め一部の技術者はつぐみの本部への移籍を企んでいたりする。 「共通があるな、1、2、3……」 「…あ!雷蔵くん、共通点は10進数、共通点以外は2進数じゃない?」 「!なるほど、もう一度、16進数か」 雷蔵が手元を操作する。 直ぐに演算が働いて変換後の数値が出てきた。 これで一歩進んだ。 次の問題を解こうとすると、けたたましく再度警報音が鳴り響く。 またも本部が攻撃されているのかと顔を見合わせれば、事態はさらに最悪だった。 『侵入警報!侵入警報!』 「侵入警報!?」 「通気口から人型近界民が現れたそうです!」 指令室からの通信に全員が固まる。 外壁への攻撃とはわけが違う。 内部に入られたとなれば、遭遇の可能性がある。 攻撃されたら生身のエンジニアはひとたまりもない。 どうするのかと上長の顔を全員がみた。 男は腕を組んで少し考えてから迷いのない声で言った。 「―――解析を続けよう」 その言葉に全員が頷く。 退避命令も出ておらず、まだこちらに近づいてるわけではない。 ここまで来たらはやく解析を終わらせた方がいい。 最終回答にも、もう直ぐたどり着きそうだ。 全員が一丸となって頭を振り絞る。 そこからははやかった。 解き方のコツがだんだん分かってきて、次々に解いていく。 他の人間が解析したところ、答えを入力する欄の文字数は5文字だ。 解析している羅列の文字数はだんだんと減っており、着実に終わりに近づいている。 「よし、もう少しで…!」 あと一歩、というところで警報が再度なる。 直後指令室から通信が入った。 『接近!侵入者接近!』 「通信室壊滅的被害です!人型が研究室に向っていると…!」 「!」 通信室はここから離れていない。 このままだとこちらに来る。 ここまできて放棄するのは悔しい、しかしすぐ傍に死が迫っている。全員に迷いが生じた。 しかしつぐみだけは違った。 その中で唯一機敏に動いた。 「雷蔵くん!後は頼んだ!」 「結城!」 技術室を飛び出す背に、全員が慌てる。 つぐみの服をつかもうとする先輩の手が空を切った。 *** 廊下に出れば避難する技術者とすれ違う。 その波を逆走して、俺はトリガーを起動した。 直ぐに指令室から通信が入る。 「トリガー起動!」 『結城!』 「エンジニアの中で戦えるのは俺だけです」 『―――くそ!』 鬼怒田さんの盛大に舌打ちするのが聞こえた。 申し訳ないがこれだけは譲れない。 もう少し時間が稼げれば諏訪くんはキューブから戻るだろう。 でも、雷蔵くんも先輩も、傷つけさせたくない。 俺は、もうあの場にいなくても大丈夫。 だから自分のできることをしに行く。 『結城くん、出てしまったものは仕方ない!だが接近戦は不利だ!無理はするな!時間稼ぎで十分だ!』 「分かってます忍田さん!誰かがくるまでの時間、稼ぎます!」 手にした弧月を握る。 人型と聞いているから当然相手は人だ。 傷つけるのは怖い、でもせめて時間くらいは稼げるだろうし、俺が敵の顔を見れれば、サイドエフェクトでもっと情報がつかめるかもしれない。 怖いけど、俺は戦うよ、迅くん。 |