唯我のオサナナジミ //唯我と同じ年で幼馴染の草壁隊シューター。かなり口が悪くまた唯我へのあたりがきつく見えるかもしれません(が、仲のいい幼なじみです) 唯我がどうやら佐鳥と時枝にいつもの上から目線をしたらしく、ラウンジはかなり険悪なムードが漂っていた。普段温厚な時枝と、空気を読んで流す佐鳥にしては珍しい。それと同時に、そんな彼らが怒るとなると、恐らく嵐山隊を貶された事が原因だろうと直ぐに検討がついた。 米屋と仮想戦闘ルームに移動しようとしていた出水が騒動に気が付き間に入った。唯我の背中を蹴飛ばすという形での仲裁だ。 いつもはそうされると泣いて引き下がる唯我だが、今日は人目もあり珍しく引き下がらなかった。 喚き散らす唯我に、そろそろスポンサーの話でも出てきたらまずいなぁと米屋が危惧していると、唯我はぱっと顔をラウンジの入口へと向けた。 「あ、しとど!丁度いいところに!」 唯我の大きな声に全員がそちらを見た。 草壁隊のしとどだ。 しとどは近寄る唯我に嫌そうな顔をして踵を返そうとしたが、唯我がそれを許さずこちらに引っ張ってきた。 そして唯我が佐鳥と時枝を指さす。 「出水先輩はともかく、あとの凡人がボクのことを全く尊敬していなくてだな…!」 「そりゃお前が弱い上に、人間性に難があるからだな」 間髪いれず唯我を全否定したしとどに米屋は思わず噴き出して笑った。 ここまであっさり切り捨てられるは太刀川隊のメンバーとしとどくらいなものだろう。 いや、太刀川隊よりも酷い。 しとどという男は、唯我の幼馴染として有名だ。もちろんそれだけで注目を集めている訳ではない。雪の様に白い肌と、人形のように大きな瞳で、まるで女子の様な、男なのだ。そしてボーダーの大手スポンサーの息子だ。しかし唯我と違って、華奢で小さく到底戦えるように見えないのに、実力でA級4位まで登ってきた男だ。さらに見た目を裏切る、ワイルドな性格と話し方をしている。 ショックを受けている唯我をフォローするつもりは無いらしく、しとどは「この話終わりでいい?」と言ってきた。 「しとど!?キミは俺の幼馴染だろう!?もっと大切にしようとか思わないのかい!」 「思わない」 一蹴だ。米屋がゲラゲラと笑う。 唯我は顔を真っ赤にして怒っている様子だった。これだけ聴衆がいる中、全く庇われなかったらそれは怒るだろう。けれどそんな事はしとどは全く気にしていない様子だ。 「あ、俺これから任務だから、唯我一人で帰れよ」 「しとど!?」 おまけにさらに突き放してくるから、本当に良い性格をしている。 天使の顔をした悪魔だと諏訪が言っていた事を思い出した。唯我はしとどの顔に惚れこんでいるから絶対にしとどの事を怒らないらしい。それを分かっているからああいう態度がとれるのだと。 唯我はめげずに何とか持ち直そうと髪をかきあげる。しかしそれは地雷だった。 「お、幼馴染といえど、距離を感じているのかい?なんてったってボクにA級1位の隊だし?そりゃ、4位のキミのところとは格が違う」 「尊」 「痛っ」 しとどが唯我に足払いをかけ、体勢を崩した唯我の肩に膝を乗せた。 驚いた唯我がしとどを見上げるが、しとどは当然笑いかけるはずも無く。 「喧嘩売ってんだったらいくらでも買うぜ。個人戦で」 「ひっ」 実力から言えば、しとどの方が圧倒的に上だ。 ハチの巣にされることは容易に想像できるので、唯我も顔を青ざめさせた。ただの戦闘ならともかく、唯我に対してだけしとどはタチが悪いので、右足を吹き飛ばして、右手を吹き飛ばして、など嫌な遊びをしてくるのだ。 それを思い出したのか唯我が大人しくなる。 しとどはそんな唯我を満足気に見下ろしてから、佐鳥達へと視線を移した。 「佐鳥も時枝もうざかったら殴っていいからな。こいつが父親に泣きついてどうにかするとかなんとか言い出したら俺に言ってくれればこいつの親父止めるから」 「ありがとう。でも大丈夫なの?」 「親父さん俺の事えらく気に入ってくれてるから問題なしだな、時枝」 「しとどちゃん、すごいね…」 「褒め言葉として受け取っておこう」 唯我だけ、特別。そう言って笑うしとどに、しゃがまされている唯我が何か良く分からない呻きをもらしていた。喜びたいけど喜べないといった感じだろうか。 その様子に、しとどは汚いものでも見る様な目をしていた。羨ましくない特別だなと、米屋は少し唯我に同情した。 「出水先輩と米屋先輩も。こいつ昔から直ぐに調子乗るから、いつでも叩いてもらっていいんで」 「ちょっとぉ!?」 「サンキュー。お前がそう言ってくれると心強いわ」 「もう出水は結構叩いてるけどな」 遠慮なく唯我をしばけるのは同じ隊の出水くらいだろう。 米屋の言葉にしとどはふっと笑ってから、唯我の肩から膝を下ろし、踵を返して行ってしまった。 「しとど!」 唯我がその後を追う。 まるで犬と飼い主だな 米屋は唯我の首輪のリードの先にしとどがいるのが容易に想像できて笑った。 「つか尊、髪うざい。きもいから切れや」 「拒否する!これはお洒落で伸ばしているんだ!」 「ふっお洒落」 「鼻で笑うとは失礼だな本当に!」 「切りたくなったらいつでも言えよ。俺が切ってやるから、散切り頭に」 「何でだ!何で明治の髪形なんだ!」 態度は冷たいが、しとどは唯我が嫌いなわけではないようで。 何だかんだ言いながら、二人は並んでラウンジから姿を消した。 |