小南と双子












いつも見ている、見慣れた光景なのに、何度見ても胸が痛む。
見るのを止めればいいのに、止められない。傍にいられるという魅力を手放せない。

「嘘です」
「とーりーまーるー!」

桐絵ちゃんがとりまるの胸をがくがく揺さぶる。
仲良さそうな光景が微笑ましくて、そしてその距離感が羨ましくて、俺は目を細めて笑った。
俺は絶対にあんな関係になれない。
俺が桐絵ちゃんならよかったのに。ううん、せめて女の子ならよかったのに。
双子だから見た目も体格も似ているのに、俺は男に産まれてしまって。
女の子に産まれたかった。そうしたらこんなに苦しくならなかったのに。

俺はそっとその場を離れる。
やっぱりずっと二人の傍にいるのはつらい。
屋上ににでると、冷たい冬の空気に身震いした。
白い息を吐いて、屋上の端まで移動する。
端に座り込んで、俺は街を眺めた。
暗闇にぽつぽつと浮かぶ街の灯りが綺麗だ。

「とりまるはやっぱり桐絵ちゃんのことが好きなんだろうなぁ」

すごく仲良く見える。
とりまるがあんなに嘘つくのも桐絵ちゃんにだけだし、でもなんだかんだ優しい。
俺は肩を落としてつぶやく。

「普通に考えたらそうか」

桐絵ちゃんは可愛いし、頭もいい。戦ったら強くて、カッコいい。でも直ぐ騙されちゃうくらいに純粋で。いつもにこにこしてて。
本部でも学校でも、よく桐絵ちゃんを紹介してほしいって声かけられる。それくらい人気だ。
そんな桐絵ちゃんが俺の双子の姉で、一緒にいれば当然俺は見劣りする。
そもそも男なのに、隣に可愛い女の子がいたら、普通はそっちを好きになる、か。

「好きになってもらえるはずない」

どんなに頑張っても、無理だよなぁ。
離れられればいっそ楽なのに、やっぱり傍で顔を見ていたいという思いが強くて。
自分で自分の首を絞めている。
いっそ、応援できるくらい、俺が強ければいいのに。
そこなのだ。桐絵ちゃんは凄く可愛いくて俺の自慢の姉で、そしてとりまるくんは格好良くて頼れる後輩で。どっちも素敵な人なんだから、その二人がくっついてくれるなら幸せなはずなのに。
二人の幸せが、祈れない。

「しとど先輩」
「っ、とりまる」

突然声をかけられて俺はびくっと身体を震わせる。
振り返ればとりまるが立っていた。
さっきまでリビングで桐絵ちゃんといたはずだ。
今日は任務はもう終わっているから桐絵ちゃんはずっと本部にいるはずだけど。

「どうしたの?」
「姿が見えなかったので」
「そんなの気にしなくてもよかったのに、桐絵ちゃんと遊んでいる方が楽しいでしょう?」
「どっちかというと小南先輩で、遊んでいるんですが」
「?」
「分かっていないですね」

とりまるは手にしていたブランケットを広げて俺の肩にのせた。
俺が驚いた顔をすると、とりまるはすっと目を細めた。

「俺はしとど先輩と居たかったので。駄目ですか」
「う、ううん…駄目じゃない、けど」

その眼差しに居心地が悪くなって俺は言葉を濁す。
肩に乗せてもらったブランケットを握ると、とりまるが隣に腰を下ろした。
とりまるはそうべらべら喋るタイプじゃない。
俺もあんまりしゃべる方ではないので二人でいると無言が続くことも多い。
それを居づらいと感じたことはないけれど、さっきの思いがあるせいか今は少し気まずかった。
俺は口を開く。

「桐絵ちゃんってさ」
「はい」
「身内の贔屓目をぬいてもやっぱり可愛いと思うんだけど、どう思う?」
「…さぁ?俺はどっちかといえば、大人しいオペレーターみたいな人が」
「え、うさみちゃん…?」
「眼鏡はつけてません」
「そ、そうなの?そうか…」

想像と違う回答が返ってきて混乱する。
とりまるは大人しいオペレーターの子が好きなのか…でもうさちゃんじゃないとなると……本部の子かな。
あり得る、とりまるくんはずっと本部だったんだし。
いやもしかして桐絵ちゃんの弟の俺に遠慮した可能性もある、嘘かも。
ぐるぐるととりまるが言う相手を考えてしまう。知ればつらいのは自分のはずなのに、でも知りたいと思ってしまう。好きな人のことは、なんでも知りたいなんて、ほんとどうかしてる。
とりまるははぁとため息のような深い息をついた。

「…しとど先輩は全然騙されませんよね」
「そりゃ、双子揃って騙されやすかったら今頃何らかの事件に巻き込まれてるでしょう?」
「まぁ確かに」

桐絵ちゃんは気を許した相手にとことん騙される。
それがからかっているだけならともかく、悪意があった場合止めるのは俺の役目だ。
昔から桐絵ちゃんをずっと見ていたせいか、なんとなく俺の方は冷静に育ってしまった。
こういうところもちょっと桐絵ちゃんが羨ましくなる。俺も、あんなに表情豊かなら少しは好意を持ってもらえてかもしれないのに。

「しとど先輩がもっと騙されやすい人だったら良かったのに……」
「ん?」
「いえ、なんでもありません」

びゅうと強く風が吹いて俺はブランケットを押さえて身を竦めた。
その間にとりまるが何か言ったみたいだけど風の音で何も聞こえなかった。
聞き返しても答えてもらえず、やっぱり俺じゃダメなんだと言われた気がして、悲しかった。









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