菊地原と先輩 //菊地原の一つ年上主人公 見事につもった雪に気をとられて足元への注意がおろそかになっていた。 つるっと滑って、体勢を崩す。 あ、転ぶ。 俺がそう思ったのと同時に、腕をぐっと掴まれた。 「っ」 「あ、ぶな………怪我はないですか?」 「う、うん」 何度も頷いて俺はほっと息を吐く。 菊地原のおかげで転ばずにすんだ。 「ありがとう」 そう言えば、菊地原は黙って頷いて手を離した。 足元を見れば、俺より前に歩いた人達により、雪が踏み固められて氷状になっていた。 こんなところにも冬の醍醐味が転がっていたようだ。 俺ははぁと息を吐く。すると周囲が白くなって、それが空気に溶けて。 「雪すごいね」 「寒くて嫌になります」 「俺は雪好きだよ。綺麗だもん」 「誰かが触ると汚れる」 相変わらずの憎まれ口にふふっと笑う。素直じゃないなぁ。 今のは、寒くて触ると汚れるけど、雪は結構好きっていう意味。 真っ向から言うと怒れちゃうから口にはしないけどね。 「しとどさんは、新雪に似てる」 「……ん?どういう意味?」 新雪に似ているとは、どういうことだろう。 首を傾げて菊地原を見ても、菊地原はマフラーに顔を埋めてじっと地面を見ていた。 掘り下げて話す気はないという意思表示に、まぁいいかと自分を納得させる。 いつまでもここでじっとしている訳にはいかないし、寒いので、本部へ再度足を向けた一歩目で、俺はまた滑った。 「うわっ」 「ほら、足元ちゃんと見てください」 「うん…」 またも菊地原に腕を掴まれて支えられる。 菊地原の反射神経が凄い。 聴力が良いと反射神経もよくなるんだろうか。 俺は足元を見る。 「すっごい滑るね…よく菊地原は滑らないね」 「注意力をしとどさんと一緒にしないでください」 「うう…気を付けます……」 全く仰る通りだ。 しかし気を付けて歩いても転ぶ時は転ぶ気もする。 滑り止めとかつけてみた方がいいのか。 俺が対処法を考えていると、菊地原は腕から手を離して、そして俺の手を改めて繋いだ。 俺は手袋が嫌いなのでしていないのだが、触れた菊地原の手袋は外気温でかなり冷たかった。 「別に気を付けなくても良い、ですよ」 「?」 「俺が、いつもで支えるから」 俺はきょとんとする。 いつでも支えるなんて、雪の中じゃなければまるで告白みたいだなと他人事のように思った。 そんな俺に気がついたのか、菊地原は意味有り気にちらりとこちらを見て、ぎゅっと手を握る。 その仕草に、俺は意味を理解した。 顔が火照るのが分かる。 心臓が飛び出しそうな勢いで早鐘を打つ。自分でもうるさいと感じるので、これはきっと菊地原に聞えている。 俺は真っ赤な顔のまま空いている手で気休めに心臓を押さえる。 「………心音聞かないで」 「じゃあちゃんと隠してください」 「無理だよ!」 俺の気持ちなんて直ぐに菊地原にばれちゃう。 |